第21話 贖罪

 白いソレは重い、雷のような音を放ち、その大きさを増していく。

 何か説明されてもいないのに、それを目にした男たちはそれが何かわかってしまう。

「漫画かよ……」

 誰かが苦々しく呟いた。

 それは漫画などでよく見るエネルギーの塊だった。漫画ではビームのように放ったり、球体にして投げたり、こと戦闘において便利に、当たり前のように使われている。

 しかし、現実ではあり得るはずがない。

 これまでどれだけの男が漫画のような戦闘に憧れ、真似をしただろう。もしかすれば出せるのではないかと淡い期待を抱いただろう。

 希望であり、夢であったそれはいざ目の前すると紛うことなき絶望であった。

 漫画では大したことないダメージでも、現実であのエネルギーの塊を受ければただで済むはずがない。

 まして、あれは自分達が知っている空想のものではない。

 目の前の帝優という実在している人間が作り出した何かだ。下手すると、自分達が想像している以上の破壊力を持っているかもしれない。

 バスケットボールサイズまで大きくなったエネルギーの塊は依然、白い稲妻を撒き散らしている。

 そのあまりに現実離れした光景に笑い出す者もいれば、感動で泣き出すもの、絶望に打ち砕かれ座り込むものもいた。

「非現実すぎる……」

 驚きながらも音也は諦めていた。唯我は自分達が思っている以上に強かった。だが、帝はそれ以上に強く、もはや同じ人間ではなかった。

 格が違う。同じステージにいないのだ。生物として完全に上にいる。

「何が現実かは俺が決める。俺が基準だ。お前らのくだらねぇ現実はもうねぇんだよ」

 胸元のエネルギーを片方の掌の上で(どういう原理か)浮かせると帝は唯我に言い放った。

「避けたら、死ぬぞ」

 その場の全員が恐怖で震えた。それは暗に手元のエネルギーボールをこちらに向かって放つということだ。唯我に受け止めろと言っている。

「全員動くなよ。動いたら……」

「――ハナから避けるつもりなんかねぇよ」

 唯我は怯える様子など微塵も見せず強気だった。気づけば、血は止まっている。

 全員を庇えるように前へ出ると深呼吸をした。

「こいよ」

 その時、グラウンドに雷が落ちる。それも一度ではなく、三度。轟音が耳をつんざく。

 一番雷に近い二人だけがまったく狼狽えていない。

「ダメだ……」

 音也の脳裏に嫌な記憶が蘇る。何度も何度も見てきた。帝に叩き潰された生徒たちを。希望折られ、光を失った虚な眼差しを。

 今ここで唯我が倒れれば、結局同じ。誰も帝に対抗などできない。できるはずがない。

 それに何より――



「跡形も残さねぇぞッ!」「ッッァァァ!」




 ――何より目の前で友達が傷つくのを見ていられない。

 気づけば、エネルギーボールと唯我の間に割り込んでいた。

 驚く唯我に音也は告げた。

「――――絶対勝て」

 音也は静かに目を瞑った。

 これでいいんだ。今まで多くのものから目を背けてきた。見捨ててきた。こうなるべきだったんだ。もっと早く、こうしておけばよかった。

 唯我、お前の言う通りだったよ。何も悪くないお前に強く当たって、ごめん。

 白い光が音也を照らす。やがてそれは視覚も聴覚も全ての感覚を奪っていった。





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