第19話 タイマン

 唯我が停学になって十日目の放課後。真琴を家まで送り届け、一人で帰っている時だった。

 ――音也の前に帝が現れたのは。

「元気〜? 音也ちゃーん」

 帝は腑抜けた表情と反対に、一瞬で音也の隣まで詰め寄り、肩を組んだ。

 あまりの恐怖に身動きどころか、声も発せないでいると帝はそのまま一方的に話し始める。

「音也ちゃんさぁ、新人類だよね? 頑張って隠してたんだねぇ、すごい!」

 音也はなんとか心を強く保とうと上擦った声でゆっくりと答える。

「な、何が言いたい。俺なんかになんの用が……」

「あんなよくわからない転校生捨てて、こっちに来なよ。そしたら、真琴って子にも手出さないからさ。どう?」

 それは帝から音也への提案だった。音也の頭がぐるぐると回って熱を持つ。

 自分が帝の提案を受ければ真琴に手を出されない。だが、冷静に考えて、帝が約束を守る保証なんて一つもない。音也は悩むことさえ恥だと思った。

「この約束は絶対だ。もし破ったら死ぬよ。絶対に守る」

 先ほどまでのヘラヘラした態度から一変、真剣な表情の帝。信じられる要素など皆無なのに本当にそうすると思わせる圧が帝にはあった。

「もし、断ったら……?」

 恐る恐る音也が聞いた瞬間。

 帝の雰囲気がまたも豹変し、今度は押しつぶされそうなほど強大なオーラが発せられる。音也は強烈な吐き気と圧迫感で崩れ落ちそうになる。

「ぶっ潰す」

 全身から汗が止まらず、寒気が襲う。みるみるうちに顔色が悪くなる音也に、最初のヘラヘラした状態に戻った帝が笑いかける。

「今選べよ」

 帝の言葉にすぐに答えられなかったのは、言葉を話せるまで回復するのに時間がかかったからだ。帝もそれを理解しているのか、音也が答えるまで何もすることはなかった。

「お、俺は……」

 ここで唯我を裏切れば、毎日のように望んだ普通の高校生活が手に入る。それは自分だけでなく、真琴も。上手くやればクラスの全員くらいは平和に暮らせるかもしれない。元より、ここで断れば自分も真琴もただでは済まないのだ。そうするのが普通。

 ――何が普通だ。

 今、自分達が送っている日常もそれに順応しようとする心も、全てが普通ではない。外から来た唯我にそう言われたではないか。

 そして、それを理解しているからこそ、わかっていたからこそ、あの日、新人類たちを前に反抗したのだ。今ここで唯我を裏切るということはあの日の自分を裏切ることでもある。

 音也は少しでも迷った自分に毒づく。散々、新人類たちの悪行を見過ごしておいて、なんとかできる力がありながら見て見ぬふりをしておいて、唯我を裏切り、真琴を救えるなどと厚顔無恥にもほどがある。

 それにこんな回りくどい提案をわざわざする意味。

 唯我が帝と同等かそれ以上という証拠ではないか。

 ここで屈すれば、この先一生このままだ。

「俺からも提案がある」

「あん?」

 予想だにしていなかった音也の言葉に帝が怪訝な顔をする。

 音也はその一瞬の隙に帝を引き剥がすと帝を正面から見据えて言った。

「その提案を保留にして、帝優。俺とタイマンで勝負しろ。お前が勝ったら、その提案だろうがなんだろうが、なんでもする。けどもし、俺が勝ったら、手下の奴らと卒業まで何もせず大人しくしててくれ」

 は? とポカンとした後、帝は気が狂ったように笑い出した。

「ははは、はは、ハッはははははは! はははははははははっ!」

 気が済むまで笑った後、目に涙を浮かべた帝は「はー、おかし」と呟くと、指でピストルの形を作り、音也の方に銃口を向けた。

「お前さぁ、俺がそれ受ける意味まったくないじゃん。バカか?」

「お前にとっては俺なんか文字通り、指一本で片付けられるゴミだろ。だったら、俺への不可侵なんか無くせて、終わったら捨てられるんだから得だろ」

 音也の言葉に「ふーん」と呟いて、少しだけ考えるような態度を見せる。

「わかった!」

 帝はわんぱくな笑顔と明るい声色で提案を受け入れた。

「じゃあ、明日の朝四時、川島高校の正面玄関集合。あの転校生が来る前にキメよう」

 一応、音也は最後の可能性を確認しておく。

「待ち伏せの可能性は?」

「ない。絶対に。さっきと同じだよ。破ったら死ぬ」

 真剣な表情で即答する。その後、帝は付け加えた。

「それに人数で叩くんじゃ音也ちゃんに協力して貰えないから意味ないじゃん。する必要もないし」

 完全に信じたわけではないが、一応筋の通った答えに納得した音也はそれ以上何も聞かなかった。

「そっちこそ。唯我ちゃんに助け求めるとか、バックれるとか……」

「それはない。絶対に」

 言い終わりを待たずに告げた音也に帝は納得したのか、背中を向けてどこかへ歩いていった。

「ごめん、真琴、唯我」

 決意は揺るがなかった。



 ○



 約束の朝の四時。

 音也は校門を軽く飛び越えると玄関前にいた男と対峙した。

「時間ピッタリ。五分前行動でしょ、基本は」

 目の前にいる男、帝優の軽口は相手にせず、音也は必要なことだけを話す。

「ここでやるのか? やるならすぐに始めよう」

 早くも臨戦態勢を取る音也など気にせず、帝は窓の一つを開けて中に入っていく。

「落ち着けよ。ここだとバレるかもしれねーし、中でやろう。ここ、昨日開けておいたんだ」

 警戒はしつつも、昨日の帝の様子を思い出し、黙ってついていく。校内に入ってからは帝も何も喋らない。

 月明かりは便りなく廊下を照らしているが、新人類の並外れた視力はその僅かな光で夜を渡り歩く。

 二階への階段を登り、三階への階段に足をかけた時、帝は急に立ち止まり、振り返った。

「どうだい、怪しい物音の一つでも聞こえたか?」

 帝の言葉に音也は考えを見透かされていたことを知る。だが、当たり前のことだ。これまでの仕打ち、帝が川島高校でしてきたことを考えれば、疑うのは当たり前だ。

「別に……それよりどこまで行く気だ。もうそろそろいいだろ」

 焦るなよ、と帝は笑ってみせる。

「殴り合っても問題ない教室って言ったら一つだろ」

 辿り着いたのは帝たち新人類たちが溜まり場にしている空き教室だった。

「ここなら広いし、多少荒れててもすぐには気づかれない」

 帝に続いて音也も中に入る。

 その時だった。

 突然、右側から何かが迫ってくる気配を感じ、音也は咄嗟に顔をガードした。

「くそっ……!」

 カードした腕に感じた衝撃で、それが拳だと理解すると同時に、受け止めきれずにそのまま吹き飛ぶ。

「おっとー」

 吹き飛んだ先にいたもう一人が、音也を受け止めて、羽交締めにする。

 あっという間に。

 音也は絶体絶命の状況に陥った。

「…………死ねよ」

 吐き捨てる音也の腹に蹴りが飛んでくる。よく見れば、教室には全部で十人近くは人がいた。帝は最初からこのつもりだったのだ。

「お前さぁ、バカだろ。あんな提案、呑むわけねぇだろ。自分の立場わかってる?」

 くくく、と帝は我慢できないと言った様子で大声で笑い出した。

「死ぬわけねぇだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! あんな口約束信じてさぁ! 漫画の読みすぎだろお前! ギャハハハハハハハハハハハハッ!」

「こんの……」

 音也は一緒になって呑気に笑っている背後の男に頭突きを喰らわせ、拘束が緩むともう一発、鼻頭に思い切り頭突きを喰らわせ、帝達の方に男を放り投げる。帝はそれを軽く蹴ってあしらう。

「悪あがきはよせって。アレ見てみろよ」

 警戒しつつも、帝が指差した方を確認する。

 そこには、ボロボロになったクラスメイトの高田哲夫がいた。高田は壁にもたれるように座り込んでいる。生きているのかさえ、音也からはわからなかった。

「あいつさぁ、自暴自棄になっちゃってお前らのこと助けたからさ。虫のいい話だよな! 今まで散々、お前らのこといじめてたくせに、俺らと関係がなくなった途端、お前らのこと助けて悲劇のダークヒーロー気取り! そんなことで許されようってか? 無理があんだろ! 無茶だろ! 世の中そんな甘くねぇぞ! おい!」

 もう動かない高田を帝が容赦なく踏みつける。何度も何度も。周りの奴らはそれを見て心底楽しそうに笑っている。

 高田哲夫は、確かに唯我が来るまでクラスを支配していた張本人であり、帝の下で多くの生徒を苦しめた。

 たった、あの日の一回の出来事で、許されようなんてありえない。ありえるはずがない。

 だけど。

 ――だけど



「やめやがれっ! クソ野郎ども!」



 それまでにどんなことがあれ、そこにどんな思惑があれど、高田はたしかに二人を助けたのだ。これは嘘でも夢でもない。

 だからこそ、あの時助けられた自分が、ここで黙ってるのはおかしい。それは今まで新人類たちを見過ごしてきた自分と同じだ。

 発せられた言葉に帝が足を止めて振り返る。

「お前らは確かに新人類だよ。こん……っっなに汚ねぇ、ドブクソ以下のやつら、今までいなかった。こんな薄汚ねぇ新種が誕生してたとはな」

「なんだとコラァ‼︎」

 他の新人類たちが苛立ちを見せる中、帝は呆れた様子で頭をかいた。

「今まで見て見ぬふりしてたお前に言われてもな……。それに状況わかってる? お前より強い高田がこの有様なんだ。転校生の威を借りて気が大きくなってるだけの勘違い腰巾着じゃどうしようもないだろ」

 改めて、音也は部屋にいる新人類たちを見て堂々と告げた。

「ごちゃごちゃうるせぇな。かかってこいよ、金魚のフン共と臆病モン!」

 音也の声を合図にして新人類たちが殴りかかってくる。音也はそれを冷静に避けて、カウンターを食らわせる。

 思った通りだ。

 音也は自分の中の仮説が正しかったことを実感する。

 本来、こう言った不良と呼ばれるような生徒たちは日常的に喧嘩をしていて普通の高校生よりも圧倒的に喧嘩慣れしている。経験値が違う、だから強い。

 しかし、帝によって支配され、統治された川島高校で過ごしているこいつらは、自分よりも弱く、抵抗もしない生徒をただ一方的に痛めつけているだけ。おまけに慢心しきっていて、動きも単調。身体能力は新人類である音也と大きくは変わらない。卑怯な手にさえ気をつけてさえいれば大した相手ではない。

 要するに音也の目の前にいる新人類たちは群れて粋がっているだけの雑魚ということ。

「つっても、この人数は……」

 すでに帝の卑怯な手に引っかかてしまっている。いくら思っていたより弱いと言っても一人一人の実力差はほぼないと言ってもいいこの状況で、この人数差は苦しい。

「大口叩くんなら見せ場作れよ〜」

 少しずつ押され始め、削られていく音也に、後方で高みの見物をしている帝は言う。

 音也は改めて、状況がいかに絶望的かを理解する。ここにいる新人類たちを倒したとしても、まだ帝がいる。むしろ帝を倒さなければ意味がないのだ。いくら有象無象を片付けようとも、目の前で退屈そうに欠伸をしているこの男を倒さなければ。

 しかし、現実はどこまでも残酷で。

「ちっくしょう……!」

 新人類たちの攻撃が徐々に避けきれなくなり、殴るよりも殴られる回数の方が増えてくる。

「倒れるかよ……」

 立っているのがやっとの状態で、それでも音也の心は折れない。

 ――もう、諦める道は捨てたから。

「終わりぃぃぃぃぃぃ!」

 最後の一撃が音也に当たる瞬間。

 目の前に現れた影が音也の視界を遮った。

「お、お前……」

 正面、音也を守るようにして立ち塞がったのは、ボロボロにされ倒れていた高田哲夫だった。

 高田は新人類の拳を難なく弾き返すと、音也に一つ、質問をした。

「……おい、一つだけ答えろ。さっき、なんで俺を庇った」

 一瞬、なんのことを言っているのかわからなかったが、ついさっきのやりとりを思い出す。知っているということは、あの時、高田にはかろうじて意識があったらしい。

 音也は鼻で笑うと、高田の隣に並んだ。

「それが――俺の正しいと思うことだったから」

 それを聞いた高田はフンと鼻を鳴らすと「変わってやがる」と呟いた。

「さぁ、お互い第二Rラウンドだ」

 意図せぬ共闘に二人の気合が高まった時。

 

「クソ臭ぇんだよ、大根コンビ」

 帝の目にも止まらぬ一撃で二人は呆気なく敗北した。

 勝利も敗北も、全ては帝の気分だった。

「ほら、起きろコラ」

 帝は気を失っている音也の髪を引っ張り、顔面を殴って音也を目覚めさせると、音也のポケットから携帯を取り出して、音也の指で指紋認証を解除した。

「な、何する気だ……!」

「こいつ、イスに押さえつけろ」

 言われた通り、残った新人類たちが音也を椅子に強引に押さえつける。

「ダメだよなぁ、助け求める気で携帯なんて持ってきちゃ…………はーい、本田真琴さーん」

 その名を聞いて、音也は狼狽えた。誰も巻き込まないつもりだったのに、逆に自分のせいで真琴を、友達を危険な目に合わせてしまう。

「やっ、やめろ! この野郎!」

 抵抗しようとすると、思い切り腹に拳がめり込む。鈍い痛みと吐き気が音也を襲う。

 帝は真琴の声が音也に聞こえるように通話をスピーカーにした。

「見えてるよねー! 本田さん、あのね。彼ね、今から死にます」

 泣きそうな声の真琴が慌てている。音也は拘束から逃れようと必死に暴れる。

「君が、今から川島高校三階の空き教室に誰にも言わずに一人で来ないと、彼、死んじゃいます。さ、早く来なさい!」

 一方的に告げて、帝は通話を切ってしまった。音也のスマホを放り投げ、人間椅子に腰掛ける。

「さぁ、来るかな? 本田さん」

 何も答えなかったが、真琴なら来ると音也はわかっていた。いや、むしろこの状況で来ない人間の方が少ない。

「この……クソゲス野郎……!」

 帝はゆっくり音也の前まで歩いてくると腹を踏みつけた。

「口悪ぃなぁ。教育どうなってんの?」

 それから音也はただ痛ぶられ続けた。新人類なのをいいことにギリギリ治る程度の、遊び感覚の暴力が繰り返された。

 そして、とうとう到着してしまった。

「あら、来たの」

 本田真琴が現れた。

 真琴は強気な表情を保っていたが、声は少しだけ震えていて、恐怖を我慢しているのがわかってしまっていた。

「来ました。だから、音也くんを解放してください」

 真琴が精一杯、絞り出した言葉に帝は呆気なく、NOを口にした。

「来なきゃ殺すとは言ったけど、来たら助けるとは一言も言ってないよ。早とちりだねー、ドンマイ」

 真琴の顔が一瞬で絶望に染まる。帝以外の新人類はそれを見て、嫌らしく笑うが帝は冷たい表情のまま動かない。

「別にお前のつまらねぇ絶望顔が見たかったわけじゃねぇんだよ。大門唯我に対するカード、古くさい老人国に対する宣戦布告なんだよ、これは」

 帝の言っていることがわからず、その場にいる誰しもが首を傾げたが、唯一、高田哲夫だけが帝の真意に気づいた。

「秩序の守護人……やり過ごすんじゃ……。まさか、あんた国ごと敵に回すつもりか……!」

 遅れて理解した音也は慌てて頭の中を整理する。

「ま、待てよ。唯我が“秩序の守護人”って決まったわけじゃないだろ!」

 帝は真琴の胸ぐらを掴み、軽々と持ち上げると、壁に向かって乱暴に投げつけた。

 壁に激突した真琴が苦しそうに呼吸を乱す。

「真琴ッ!」

 帝はこれまでよりも冷たい表情と声で話す。

「国から“秩序の守護人”へのメールは既にこっちに漏れてんだよ。メールがあったのがちょうど一ヶ月前。大門唯我あいつが来たのと同じタイミングだ。確定してんだよ、既に。開幕してんだよ、とっくに。国と新人類おれたちとの戦争は」

 そのあまりの規模に仲間の新人類をはじめ、全員がついていけてなかった。そして、その話でやはり唯我が秩序の守護人だったことが判明する。

「関係あるか……ッ。俺たちはただの高校生だッ! テロリストごっこやりたいんなら他所でやってろ厨二病ッ! 帝優、俺はお前を許さない……! 絶対にだ!」

 音也は怒りに震えていた。

 しかし、そんなものは意にも介さず、帝は音也の顔面を一発殴った。

「ただの高校生。そんなもんはこの世の中にはいねぇ。それはお前の願望だろ? お前の理想の“ただの高校生”でいたいっていう」

 帝は動かない音也を何度も何度も殴る。返り血が頬を染める。

「結局ッ! 俺もお前も! 他のやつも全員、自分の思い通りにしたいだけなんだよッ! 誰の理想が現実になるかだけ!」

 あまりの剣幕に仲間であるはずの新人類たちでさえ引いている。

「俺が! お前ら全員、一人残らず支配してやるよッッ! ……俺の理想の元で死ね」

 まだ音也には辛うじて意識があったが、何かを言い返す力は残されていなかった。それでも眼光だけは鈍ることなく、帝を捉え続けていた。

「だからお前みたいなノイズは消していかないとな」

 次の一撃で音也は間違いなく意識を失う。新人類の超再生も、帝の攻撃に対してはあまりに役立たずで、なすすべはなかった

 呼吸が整った真琴はなんとか立ち上がると、帝を止めるべく、大声を上げようとした。

「待って、やめッ……っっっっ!」

 真琴の口は帝に瞬時に抑えられてしまった。

 帝は真琴の腹を一発殴ると、倒れ込んだ真琴の上にドカっと座り込んだ。真琴が苦しそうに呻き声をあげる。

「ま……真琴…………」

「こうなることくらいわかってただろ? だから今まで大人しくしてたんじゃねぇか。転校生にノせられて、自分達だけは特別だとでも思ったか?」

 あまりに冷静で、冷酷で、残忍なその姿、この状況、まさに音也が今まで恐れていたことそのものだった。

 なんとか。

 なんとかして、この状況を打破したいが、体も頭も、動かない。

「真琴、だけは…………真琴だけは」

 音也が絞り出した答えは“真琴だけを逃す”というものだった。それは事実上の敗北宣言だった。それでも、新人類でもない普通の女子高生である真琴をこれ以上、怪我させるわけにはいかなかった。

 しかし、帝はそんな音也の懇願を鼻で笑い飛ばした。

「無理、無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理。そんな都合のいい話がこの世にあるかよ。……もういいよ、お前」

「まっ、待て…………っ!」

 音也は薄れゆく意識の中で、真琴や唯我に謝ることしかできなかった。

 結局、抵抗することなど無意味で、ただ帝優という人間の恐ろしさを身を持って再認識させられただけだった。

 曰く、帝優を知る新人類たちは口を揃えてこう言う。

「帝優に敵うヤツはこの世にいない」

 と。





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