第17話 最後の日
唯我がいない十日間は驚くほど静かに過ぎ去ろうとしていた。
何かあるに違いないと構えていた音也と真琴だったが、拍子抜けするほど何もなく、あっという間に最終日を迎えた。
もはや不気味にも思える静けさは逆に心をざわつかせる。
唯一起こった事と言えば、初日に音也たちに絡んできた新人類たちが校舎の影で再起不能にされていたこと。
「唯我くん帰ってくるまで無事に過ごせてよかったね」
安堵している真琴とは反対に音也はいつも以上に気を張っていた。まだ一日は終わっていない。帝たちがこのまま何もしないわけがない。
しかし、放課後になるまで新人類たちが何かしてくることはなかった。
その日の帰り道、音也の口から出た聞きなれない単語に真琴は思わず聞き返した。
「秩序の守護人? なにそれ」
真琴の質問に音也は話し始めた。
「
へえ、と作り話を聞いているような反応をした後、真琴は言った。
「唯我くんがその“秩序の守護人”だって言いたいの?」
音也は「かもしれない」と空を見上げて言った。それくらい、突然現れた唯我の存在と強さは音也にとって信じられないものだった。
それを聞いた真琴は考え込むように唸ると、さらに悩んで首を傾げた。
「そうは見えないけどなぁ……。なんかイメージだけど、もしそうだとしたら最初からあんなに目立たないんじゃない? 眼鏡とかかけて地味な生徒のフリとかしてそう。それでここぞ! って時にメガネ外して実力を見せるとか!」
「それは漫画の読みすぎ……」
しかし、音也はそれを完全に否定しきることもできなかった。
「あいつのこと知らないなぁ」
思えば、唯我のことを二人とも詳しく知らない。唯我が意図的にそうしてるのかもしれないが、新人類に怯えるばかりで唯我のことを知ろうとしなかったのは事実だった。
「明日、唯我くんのこと聞きまくろうよ! そしたら、唯我くんが秩序の守護人かどうかはっきりするかも!」
音也は、唯我がバカ正直に答えてくれる保証はないと伝えようとしたが、楽しそうな真琴の顔を見てやめた。この当たり前の笑顔でさえ、唯我が来る前にはなかったものだ。それを曇らせたくない。そう思った。
それから音也と別れ帰宅した真琴はベッドの上でぼんやりと考える。
今は確かに何かされるんじゃないかと心配だが、それでもこんな毎日、唯我が来る前には夢のようなものだった。
「卒業までいてくれないかなぁ」
転校が多いと言っていた唯我はいつまで川島高校にいるかわからない。連絡先は交換しているが、それでも当然いなくなるのは寂しい。
新人類たちが好き勝手していた状況を変えてくれたからだけではなく、唯我と音也、二人と一緒にいると楽しかったのだ。だから、いてほしい。
「秩序の守護人かー……」
そんなことを考えているうちに真琴は知らずのうちに眠りについた。
真琴は近くにあったスマホの振動で目が覚めた。画面には音也からの通話が表示されている。
「こんな時間になんだろ?」
外はまだ暗い。いくらなんでも早すぎる。唯我の停学が明けるのが楽しみで眠れなかったのだろうか。唯我と三人で登校しようとか言い出すのだろうか。
そんな優しい想像は一言目で砕け散る。
「はーい、本田真琴さーん」
聞こえた声は帝優のものだった。
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