第15話 大丈夫

 いつかの河川敷で、二人はベンチに座り、夕日を眺めていた。

「バレたら停学伸びるんじゃないか」

 フードも何もせず、隠れる気のない唯我を見て、音也は懸念を口にした。

「バレねぇよ。多分」

 その清々しいほどになんの根拠もない言葉に、なぜか安心した音也は軽く鼻を鳴らした。

 それから唯我は詳しい事情を話した。やはり帝の策略だった。

「停学一週間で済んだのは山崎……帝に脅されて俺をはめたやつのおかげ……ってのは変か。そいつが大事おおごとにしないでくれって言ったらしい。有難いけど、帝に何されっかわかんねぇなぁ」

 前回、ここに来た時と同じように、唯我は随分と気の抜けた様子だった。

「お前呑気だな。お前がいない間、帝が何するかわからないのに」

「もうしょうがねぇよ。慌てたって仕方ねぇさ」

 唯我はやけに落ち着いていた。音也からすれば今の状況は落ち着いていられるようなものではなかった。だからこそ、今日こうして会っているのだから。

「お前、最後のメッセージだけど……」

『真琴のこと頼んだ』唯我から最後に送られてきたメッセージだ。

「正直言って、自信ない。自分のことしか守ってこなかったんだ……誰かを、ましてや帝からなんて……」

 不安げに弱音を吐いた音也の背中を唯我は思い切り叩いた。音也がその想像を絶する痛みに悶える。

「何言ってんだ! あんなやつ楽勝だろ! ……お前ならできる」

 呑気に、陽気に、しかし淀みなく、真っ直ぐな言葉が不安を弾き飛ばす。

 音也は大きなため息を吐いた後、同じように唯我の背中を叩き返し、

「さっさと戻って来いバカ」

 といつもの調子で言った。

「バカは余計だろ」

 それから他愛もない話を少しして二人は別れた。

 音也は拳を握り締め、真琴を守り抜くこと、そして改めて、帝の支配に屈しない決意を固めた。

 翌日、外出していたところを目撃された唯我の停学期間は十日に伸びたのだった。




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