第14話 変化
翌日、真琴と音也の二人は唯我が停学になったことを聞かされた。
「あいつ……」
停学になったことは唯我からの連絡で知っていた。しかし、いくら聞いても詳しい事情は話さなかった。
クラスの雰囲気がいつもより暗い。それも仕方のないことだった。この一カ月、クラスを明るくしていたのは唯我であり、何よりこのクラスのほとんどが唯我がはめられたことをわかっているのだ。
逆らえばこうなる、いつものことだった。どうして忘れていたんだろう、と束の間の希望に縋ったことを後悔する。
「今日、あいつと会ってくる」
このまま何もしないのが耐えられなかった音也は放課後に唯我と会う約束をした。家に行くと言ったが、気晴らしだと河川敷で会うことに決まった。
今回の件、音也は前ほど悲観的ではなかった。その理由は帝のやり方だった。普段ならこんな回りくどいやり方をしなくとも、真っ向からの暴力でなんとかしている。それをしなかったということはいつものやり方では唯我をどうにもできなかったということ。
それは、むしろ新たな希望でもあった。
「もしかしたら……」
もしかしたら、唯我は帝に勝てるのかもしれない。
そんな希望を振り払う。まだ、その希望を持つほど状況は良いものではない。それに眩しすぎる。
音也は昨日の唯我とのスマホでのやりとりを思い出す。いくつかのやり取りの後、唯我は最後にこう締めた。
『真琴のこと頼んだ』
唯我がいない以上、新人類たちから本田真琴を守るのは音也しかいない。
「どうせ目つけられてんだ。関係あるか」
腹は決まっていた。唯我がいない一週間、なんとしても真琴を守りきる。
その日の休み時間、自販機に飲み物を買いにきていた二人に早くも新人類は動いてきた。
「や、やめて……」
真琴の声で振り返ると、柄の悪い新人類が真琴の腕を掴んでいた。
「おい!」
音也がやめさせようとすると、後頭部に衝撃が走った。
「ぐっ……」
見ると、背後からもう一人、新人類が殴りかかってきた。
なんとか応戦する音也だったが、その間真琴を助け出せない。
「離して……お願い……!」
抵抗する真琴だが、力では全く敵わない。
「くそっ、この……!」
音也が声を上げたその時、新人類たちを巨大な影が呑み込む。
「あ? ……うお」
そこにいたのは二人と同じクラスの高田哲夫だった。
「あんだ、高田じゃねーか。ビビらしてんじゃねーよ!」
新人類は高田とわかるとそのふくらはぎあたりを楽しそうに蹴った。しかし、高田は全く気にせず、そのまま前進した。
「あ? おい……っ! てめぇ!」
高田は目の前の男になど気づいていないように前進を続け、やがて男は自販機と高田の間に挟まれる。
高田はそれでも前進をやめず、男を圧迫していく。
「て、てめぇ……何してるか、わかってんのか……うッ」
散々押し込んだあと、高田は一発膝蹴りをかました。
男はその一撃で、倒れ込んだまま動かなくなった。
「お、お前! 帝さんに逆らったら、どうな……おゥッ!」
高田はもう一人の頭を掴むと自販機に勢いよく叩きつけた。
あっという間に二人を片付けた後、無言でその場を去ろうとした高田に真琴が声をかけた。
「待って、高田くん。ありがとう……」
呼び止めた音也に高田は振り返らずに言った。
「これは俺のためだ。俺が俺のためにやったんだ。勘違いすんな」
それだけ言うと、高田はその場からいなくなってしまった。
「やっぱり、何かが変わってきてるんだ」
高田のあんな姿、唯我が来る以前には想像すらできなかった。
そして、放課後。
音也は唯我と合流した。
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