第7話 怒り

「真琴!」

 高田の手に捕まっているのは間違いなく、先に帰したはずの本田真琴だった。真琴は怯えた表情で涙を浮かべている。

「唯我よォ、お前が大人しくやられるならこいつを無事に返してやるぜ」

 この時、高田は安堵していた。この戦いが始まったとき、念のため真琴を追って拉致しておいたのだ。案の定、唯我は圧倒的な力で新人類たちをねじ伏せていった。高田の作戦が功を奏したのだ。

「どうした。やられやすいように大の字で寝転んでみろよ。ほら! こいつがどうなってもいいのか!」

 高田の声に先程まで尻込みしていた男たちがジリジリと距離を詰めてくる。その表情にはお得意の笑みが戻っていた。

「……無事に返すのは当たり前だ」

「あ?」

 唯我はこれまでよりも強く拳を握りしめ、今までにない形相で高田を睨みつけた。

「今そっちに行く。それまでに遺言でも書いておくんだな」

 そう言うと、唯我はまっすぐ高田の方に歩き出した。

「おい! テメェ! 話聞いてなかったのか!」

 高田の声は無視され、他の新人類たちは一撃で唯我に蹂躙されていく。その様子を見た高田と取り巻きは戦慄する。

「た、高田さん……あいつ、強すぎますよ!」

「や、やべぇ……これが秩序の守護人だって言うのか……?」

 恐怖を露わにする取り巻きに高田はいよいよ焦りを隠せなくなる。

「くっ、この!」

 この時、高田に理解できないことが起きた。

 高田が真琴に手をかけようとした時、真琴は

 代わりに。

「はっ……ぁ?」

 高田の頭上で唯我が脚を振り下ろした。

「くたばれッッッ!」

 二メートルを超える脳天に強烈な踵落としが炸裂する。高田はそのまま轟音と共に床に叩きつけられる。少しだけ辺りが揺れ、廊下のコンクリートに小さなクレーターのような破壊痕ができる。

「た、高田さ……」

 駆け寄ろうとした取り巻き二人の顔面に唯我の拳がめり込む。

 連中が全員動かなくなり、廊下が放課後のあるべき静けさを取り戻す。

「大丈夫か? 真琴」

 真琴は目の前の光景を呆然の眺めていた。唯我を見捨てて、逃げたつもりだった。翌日、悲惨な転校生の姿を目にするものだと、そう思い込んでいた。

 だが、蓋を開けてみればどうだ。敵は全員薙ぎ倒され、唯我は悲惨どころか、無傷でいる。

 緊張の糸が途切れた真琴は泣きながら唯我に飛びついた。

「おいおい、大袈裟だろ」

 平然としている唯我にこれまでにないほど安心している。

 だが、絶対に期待はしない。この光景を見てなお、川島高校の支配は揺るがないと確信している。もう、唯我に平穏な学校生活は訪れないだろう。それでも、真琴は唯我の味方であり続けようと、今そう誓った。たとえ、どんな目に遭おうとも、今からでも遅くはないとそう思えた。

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