銀色の新型
第三〇六地下壕を攻略すべく、ロベ地上部の一画へ集結せし帝政レソンの軍勢……。
それに対する反撃の
――ズオッ!
本来ならば、宇宙を行く艦船や中継ステーションに装備される大出力兵器が、遠慮会釈なく地上部に集った敵軍へと撃ち放たれる。
その効果たるや、絶大なり。
「ナナッ!」
「まっかせてーっ!」
荷電粒子の砲撃によって敵陣を混乱させたならば、切り込み隊長であるナナの出番だ。
彼女の駆るタイゴンが、両手に機兵用分子振動刀を握って一直線に突撃していく。
「わたしが援護するね!」
それを助けるのはララ機であり、彼女のタイゴンは装備した機兵用三八式突撃銃を有効に使い、ナナ機の接近を助けることに成功していた。
「この距離に入ったら、あたしにはかなわないよーっ!」
そう叫ぶナナの言葉は、大言壮語ではない。
圧倒的な運動性能を誇るタイゴンにとって、白兵戦こそが最もその実力を発揮できる距離だ。
マスタービーグル社の造り出した最新鋭機は、自身に比べれば数段も動きが遅い敵機らを大いに翻弄し、両手のカタナを振るっては鉄クズへ変えていったのである。
対する敵のトミーガンたちは、これは有効な対処法を持たなかった。
数で勝っている中へ敵機が乱入し、乱戦の様相を呈しているのである。
下手に撃てば味方に当たるが、かといって、格闘戦を仕掛けようにも、トミーガンの運動性能で太刀打ちできるはずもなかった。
何しろ、トミーガンが一つの動作をする間に、タイゴンは三つから四つの動きを終えることができるのだ。
――ヴウウウウウウウウウウンッ!
――ズオッ!
さらに、単機であるならばまだしも、ララ機とレコ機による援護射撃も、依然として続いているのである。
実のところ、レコ機の荷電粒子銃はこのような状況下で撃ち込むには強力過ぎるため、やや狙いを外して放っていた。
だが、灼熱の重金属粒子が野太い帯となって擦過していけば、敵パイロットの生存本能を刺激するに十分だったのである。
第三〇六地下壕を陥落させるべく、意気揚々と布陣したのだろうレソンの軍勢たち……。
それは今や、恐慌状態に陥っていた。
そして、そうしてやったのはわずか三人のJSと三機の
「この調子で、ドンドンいこー!」
また一機、分子振動刀を突き刺して撃破しながら、ナナが景気の良い声を上げた。
「ナナ! 調子に乗らないの!
今は奇襲のインパクトで崩せているけど、そう長く保つものじゃないわ。
適当なところで引いて、後詰めと合流するわよ!」
対して、レコの方は冷静にそう言いながら、ビーム兵器での威嚇を続ける。
ここまでは――順調。
しかし……。
「うん、油断はできない……。
まだ、例の新型も姿を見せてないし」
ララはそう言いながら、狭いコックピット内で操縦桿を握り締めたのであった。
そして、噂をすれば影がさすもの……。
予兆は、乱戦の中で敵機たちが動きを変えたことである。
「あれ、レソンの人たち、退がり始めちゃったよー?
もしかして、ビビッちゃったのかなー?」
「違うわ。
退がりながらも、両サイドに寄って道を開けてる……。
何か、出てくるわ」
ナナとレコが言う通り……。
敵のトミーガンたちが見せた動きは、第三〇六地下壕へ続く地下線路の出入り口を開けようという意図に見えた。
その推察は、間違いではない……。
出入り口内にさした陽光を反射して、白銀の色がきらりと輝いたのである。
「あれが、新型……?」
認めたのは、ほんの一瞬。
だが、タイゴンが備えた四つものメインカメラとJSの優れた動体視力は、それが
「へえー、あれが噂の……。
――わっ!?」
余裕に満ちたナナの声は、長く続かなかった。
まるで、獣が飛びかかるように……。
地下線路の出入り口へ姿を現した機影は、驚くべき跳躍力をみせると、一息にナナ機へ飛びかかっていたのである。
敵機が振り下ろした銃剣と、切り払うべく振るわれたナナ機のカタナが、空中で交差した。
――ギッ!
――ギギイッ!
分子振動兵器が激突する音は、ガラスを引っかいた際のそれにもよく似ており、周囲に不快な音と火花を散らせる。
この一撃では、決着に繋がらぬと見たのだろう……。
謎の機体が空中で身を翻し、そのまま着地した。
「こいつ、速い……!」
スイッチを切り替えたナナが、鋭い声でそうつぶやく。
ようやく陽がさす中で動きを止めた敵機は、全身の装甲をシルバーカラーで染め上げており……。
全体的に鋭角なシルエットをしている点こそ異なるものの、タイゴンとよく似た……スラリとした陸上選手のごときプロポーションをしている。
頭部に備わったカメラアイは人間と同じ配置をしており、どこか趣味的なヒロイックさを感じられた。
「これが、太陽鋼社の新型……」
「――はあっ!」
ララがつぶやく間に、ナナ機が二刀流を振るい襲いかかる。
白銀の敵機はこれに――構わない。
出現時にも見せた跳躍力を活かし、ナナ機から一気に距離を取ったのだ。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと!
逃げちゃうのー?
――とと」
敵は、この新型のみではない。
レソン軍のトミーガンたちもまた、忘れてはならぬ脅威である。
敵の量産機から機兵用三八式突撃銃を向けられ、ナナは回避行動に移らざるを得なかった。
「――私が!」
――ズオッ!
レコが叫ぶのと、荷電粒子の奔流が放たれたのは同時のことである。
だが、それは……。
「かわされた!」
あらかじめ、レコ機の銃口を見定めていたのだろう。
極太の粒子ビームに巻き込まれないよう、敵機はやや大げさな……それでいて、俊敏な動作で回避運動をし、タイゴン最大の火砲を避けきってみせた。
そして、またも――跳躍!
「――くるっ!」
この新型が姿を現した時から、感じていたもの……。
自分への明確な殺意に反応し、ララが操縦桿を操る。
敵の狙いは――この機体だ。
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