雷牙躍進
まるで、ダンジョン探索型ロールプレイングゲームのような……。
地下壕攻略作戦の先鋒という、極めて重要な任務を務めながらも、カルナの脳裏をかすめたのはそのような考えであった。
地下壕へ至るための秘密通路には、いくつものブービートラップが仕掛けられており……。
まずは、工作兵たちが前進し、それを解除することになる。
入念に安全を確認したならば、その先は
トラップという、唯一恐れるものが無くなった地下通路の中を進み……。
敵のトミーガンに接敵したら、ただちにこれを撃破する。
敵指揮官の失敗は、自軍を小隊単位で出撃させ、各個撃破の機会を与えてしまったことだろう。
無論、狭苦しい地下通路内での待ち伏せであり、敵も味方も、一度に投入できる
だが、
結局、ほぼ単独でせん滅してしまえるのだ。
あとは、繰り返しだ。
また工作兵たちが前進し、厄介なトラップを解除していく……。
そうして安全が確保されたら、
そしてまた、工作兵たちの出番となるのである。
迷宮内の罠を盗賊が解除し、動けるようになったところで戦士が前に出て、遭遇した魔物を退治していく……。
これは、そのようなコンピュータゲーム内の光景を、現代の兵器に置き換えたかのような戦いだった。
だが、その先に待ち構えているのは、囚われの姫君でも、あるいは魔法の宝物でもない……。
ただ、厄介な地下壕の一つを潰し、ロベ攻略にようやく進展が見られたという事実が残るのみだ。
しかし、それこそ帝政レソンの全将兵が待ち望んでいた吉報なのである。
そんなことを考えながら、身じろぎ一つすることすらままならないコックピット内で待機していると、前進していた工作兵たちから作業終了の連絡がきた。
「頼んだぞ!」
「やっちまってくれ!」
すでに、作戦開始からは五時間ばかりが経過しており……。
大した休憩もなく、トラップ解除という神経をすり減らす作業に従事しているのだから、疲労はピークに達しているはずである。
それを忘れられているのは、
「中尉殿、すごい人気ですね」
「そりゃそうさ。
あたしら、ここまでほとんど出る幕がないんだから……。
あーあ、もっとスコアが欲しいねえ」
キリー少尉の言葉を受けて、ケーナ少尉が無線越しになげく。
確かに、ここまで遭遇した敵のことごとくが
だが、だからといって、手柄を分けるような真似はできない。
「
こうも狭い通路でトミーガン同士の戦いになったら、互いに曲がり角を遮蔽にしての泥仕合となるからな。
ケーナ少尉には済まないが、今回は手柄を諦めてもらうぞ。
あくまで、我々の任務は作戦を成功に導くことであり、個人の軍功を上げることではないからな」
「はっ!」
「はいよ」
無線を通じ、両少尉の返事を受け取る。
しかし、黙っているだけで、カルナには別の思惑も存在していた。
――せっかく、楽しくなってきたんだ。
――余計な邪魔を、させてなるものかよ。
動かせば動かすほどに、機体が自分と一体になっていくような感覚……。
それにカルナは、魅了されつつあった。
初恋をした相手にさえ、こうまで頭の中を一杯にされたことはなかっただろう。
高揚とも興奮ともつかぬ感情に突き動かされ、
共和国が造り上げた地下通路は、いくつにも枝分かれしているが、正解の道は一本だけだ。
そして、その一本はマシーンの異名を持つ師団指揮官の配下によって暴かれており……。
カルナはそのルートを、迷うことなく突き進む。
突き進み……曲がり角を曲がろうという瞬間、機体を一息に跳躍させた!
人間がそうするような、予備動作は一切ない。
歩行状態からの、前触れなきそれである。
ほぼ足首の力だけで行ったそれは、問題なく
しかも、普通に床へ着地したのではない……。
通路を構成する壁面に、クモのように身を伏せながら張りついたのである。
――ヴウウウウウウウウウウンッ!
機兵用三八式突撃銃の砲弾が背後をかすめたのは、それに一拍遅れてのことであった。
もし、普通に身を乗り出していたのならば、その砲弾は直撃するか、あるいは有効打を与えることへ成功していたに違いない。
カルナの意思を汲んだ
無論、いかに
だが、一瞬だけあれば十分だ。
その一瞬で、本機は壁面を足場にして再び跳躍し、迎撃せんと待ち構えていた三機のトミーガンへ飛びかかれるのだから。
――ダアンッ!
足場となった壁面が破損するほどの脚力を発揮し、白銀の機体が踊りかかる。
踊りかかりつつも、右手に保持した三八式を構えた。
――ズガッ!
――ガンッ!
敵機らがそうしていたような、フルオート射撃は必要ない。
一射一殺……。
放たれた二発の砲弾は、それぞれ別のトミーガンの胴体へ直撃し、コックピットに収まった共和国兵もろとも貫通した。
残るは――一機。
飛びかかりながらも、バレリーナのごとく身を捻らせた
そして、最後に残ったトミーガンを足場として着地しながら、その刃を胴体に突き刺した。
――ズンッ!
……パイロットというなの脳髄を失った敵機が、だらりと脱力した状態で踏みにじられる。
「……殲滅完了」
そうつぶやきながら、カルナはキャッチャーのような姿勢で倒れたトミーガンの上に乗る
早技……あまりにも早技である、
その上、ただ瞬殺しただけではなく、砲弾の消費も、機体にかかる負荷も可能な限り抑えての勝利だ。
もはや、この地下壕を守る
言ってしまえば、ザコモンスターだ。
その先に見据えるボスを考慮し、可能な限りこちらのリソースを温存しながら排除すべき、障害に過ぎないのである。
――さあ、早く来い。
――さっさとしないと、この地下壕を潰しちまうぞ。
賞賛を通り越してあきれる部下たちに構わず、カルナはそんなことを考えていた。
『カルナ・ルーベン中尉と
繰り返す!
カルナ・ルーベン中尉と
……共和国側の新型
その通信が入ってきたのは、そんな時のことだったのである。
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