インタビュー

『ええ、そうですとも。

 戦人センジンには疎いんだけど、新しい機械が入っているっていう話は、噂で聞いています。

 ここの病院は、どうしたって娯楽が少なくなるから、そういう基地内の噂話はみんな大好きなの。

 それで、ええ……。

 そう、乗っているパイロットさんは、JSって呼ばれてるのね?』


 端末に表示された映像の中、ベッドで上半身を起こしていた中年女性が、やわらかな笑みを浮かべながらそう語った。


『この地下壕には、国が色々な物資を用意してくれているけど、それでも、レソンの侵攻は本当に急でしたから……どうしたって、不足するものはあります。

 特に、一部の医療品はそうで、私なども定期的な投薬が必要でしたから、このまま地下の底でゆっくりと終わるのかと、そう覚悟していました。

 いえ、それに対する不満はありません。

 軍の方々や、一緒に避難してきた立場だというのに働いて下さっている医療従事者の方々には、良くしてもらっていますから。

 何より、あの砲撃で、訳も分からないまま亡くなられた多くの人々に比べれば、よほど幸せな死に方だと、そう思ったものです』


 画面の中で、女性は気丈な顔をしながらそう語る。

 そこには、一度死を受け入れ、それを覚悟した人間のみが持てる気高さと美しさが存在した。


『でも、ある日、十分な量の医薬品がリキウからこの地下壕に届けられました。

 ええ、ええ……それも噂で聞いています。

 例の新しい機械が大活躍して、危ない中を届けて下さったんですよね?

 おかげで、私たちはどうにか命をつなぐことができました。

 そのJSという方々には、どれだけ感謝しても足りませんよ』


 タープテントの下、にわかに始まった上映会の中……。

 端末に見入っていたJSたちは、それぞれがほうと息を吐く。


「アラン中尉のお母さんみたいに困ってた人、他にもいたんだ……」


「それは、色んな人が逃げ込んでいるわけだもの。

 病気で困ってる人だって、一人や二人じゃないわ」


 ララの言葉に、レコが相槌を打つ。

 その表情には、自分たちがやり遂げたことへの誇りが確かに感じられた。

 これは、ただ任務をこなすだけでは、決して得られない感覚である。

 一方、そんな二人をよそに、ナナはただ黙って画面を見ていたが……。


「あ、また別の人に切り替わった」


 映像が変化したのを見て、そう声を上げたのである。


『JSですか?

 ええ、先日、直接会って握手も交わしましたとも』


 続けて画面に映ったのは、ラフな格好をした男性であった。

 飾り気のない髪型といい、手入れを怠っている無精髭といい、繁華街でも歩けばたちどころに埋没してしまいそうな人物である。

 しかし、この人物の名を知らぬ者は、もはや全宇宙に存在しまい。


 ――ロミール・レゼンスキー。


 他ならぬ、ライラ共和国の大統領である。

 ロベ市街各地に存在する地下壕が最前線の盾であるならば、彼こそは後方に控えるほこであり、各種メディアを通じての国際世論に対する訴えは、確実に帝政レソンの勢いを削いでいた。

 コメディアンを前身とし、今では自由民主主義勢力の代表格となった男は、カメラを通じてこちらの目へ訴えるようにしながら続きを話す。


『そういうわけですので、彼女らがどのような存在であるのかは、十分に承知しています。

 彼女らJSは、幼く、未来があり、何よりキュートだ。

 そのために生み出された生命といえど、それを戦人センジンに乗り込ませ、恐るべき帝国勢力との戦いへ送り出すことに、忌避感を抱く方は多いでしょう』


 そこまで言ったところで、ロミール大統領はぐっと身を乗り出す。


『しかし、ただその存在を否定するのは、現実が見えていないと言わざるを得ません。

 想像して見てください。

 彼女らがいなければ、今頃、我が国はどこまで押し込まれていたのか……。

 考えてみてください。

 レソンが今以上の勢いをもって攻めていたら、宇宙の経済に、どれほどの打撃を与えていたか……。

 今、あなたが、安全な場所で私のメッセージを聞けているのは、彼女らの働きがあってこそなのです。

 JSこそ、悪しきから善きを守る戦乙女ヴァルキリーなのです』


 そう言った後、大統領は少し考え込むようにし、こう付け加えた。


『ああ、彼女らの可憐さを考えるなら、天使エンジェルの方がふさわしいかもしれませんね』


 冗談めかして告げる男の目は、しかし、一切笑っておらず……。

 最前線となった国の最高指導者にのみ宿るのだろう、圧倒的なリアリティがあったのである。


 偉大な指導者へのインタビューが終わり、再び画面が切り替わった。

 そして、今度カメラの前に姿を現したのは、JSたちにとっても見知った顔だったのである。


「あ、ベン中尉だ」


「ガチガチに緊張しているわね」


「おっかしいのー」


 彼女らが評する通り、めったに着ないであろう共和国軍礼装に身を包んだベン中尉は、落ち着かない様子であったが……。


『はい、自分が……いえ、自分たちが今生きているのは、彼女たちの働きあってのことです』


 その言葉は、驚くほどはっきりと発したのであった。


『以前の作戦でも、彼女らがいたからこそ損害を最小限に留められましたし、そもそも、皆さんたち撮影クルーを無事にここまで送り届けられたのも、彼女らが増援として現れたからです。

 ……何、大統領閣下が、彼女らを天使エンジェルと?

 それは、言い得て妙ですね。

 この地下壕で戦う兵たちにとって、彼女らこそが守護天使だ。

 ここだけの話、出撃前にあの子たちを見れば、運気が上がるなんて言ってる者もいるんですよ』


 にこやかな顔からは、これが真実、心の奥底から出た言葉であることがうかがえる。


「えへへ……」


「何かこう……知ってる人からこんな風に言われると、すごく照れるわね」


「たまーに、パイロットの人がこっちを覗きに来るのって、こういう理由だったんだねー」


 少女たちが、はにかみながら感想を言い合う。

 その後も、インタビュー映像は続いていく……。

 ヴァレン女史たちが撮り溜めていたそれは、地下壕内に暮らす様々な人へ尋ねた、JSという存在への印象であった。

 整備士、歩兵、避難民たち……。

 JSの正体を知る軍属が中心となって取材された中で、彼女らに対する悪印象を語る者は皆無である。


 いや、それどころか、こぞって感謝の意を伝えており……。

 中には、容姿の可憐さに言及し、アイドル視しているような発言をする者まで見受けられた。

 この第二〇三地下壕において、JSたち三人は、まぎれもなく中心に位置している。

 宇宙に存在するあらゆるインフルエンサーよりも、人々に影響を与える存在なのだ。


 始めは、きゃいきゃいと感想を言い合っていたJSたちであったが、次第と静かに画面へ見入るようになり……。

 特に、ナナのそれは食いつくようなものであった。

 ヴァレン女史は、そんな彼女らを見て、満足げにうなずいたのである。

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