世間のカワイイ
「もー!
つまんない! つまんない! つまんない! つまんなーい!」
「まったくだ……。
一体、あの格好の何がいけなかったというのだろうか?」
いつものおやつ休憩……。
普段の赤いスーツに戻った
そうやって二人が騒ぐ一方、なるべくなら尊敬する
「僕とて、カメラが回っているとなれば、多少なりとも意識はする。
だから、普段の地味なスーツではなく、少しばかり気合の入ったものを選んだに過ぎなかったのだが……」
「地味……」
「この赤いスーツが、地味……」
ララとレコが、そうつぶやいてまじまじとワンのスーツを見やる。
一般常識というものに疎い――というより、一般的な社会そのものを知らないJSであるが、雑誌や報道と照らし合わせれば、
「ファッションも当然、僕の得意分野だ。
しかしながら、いつも他者には理解してもらえない。
これは、天才ゆえの孤独ということだろうか……」
そんな二人の視線には気づかず、
いつも他者に理解してもらえないということは、つまり、ファッションセンスが悪いということなのだが、彼はその考えに至ることがないようだ。
あるいは、心がものすごく強いのだろう。
どれだけ否定されようとも、自分を決して曲げない強さがあるのだ。
「
「え? 変?」
しかし、身内であるナナの言葉はさすがに響いたようである。
人数分の紅茶を並べたその手が、ぴたりと止まった。
「あたし、せっかく普段は泥臭い戦場でがんばってるんだから、カメラにはいっちばーん輝いてるところを撮ってほしいなーって」
「ふむ……」
しかし、そこはさすがに
不屈の男だ。
椅子の上ではしたなくあぐらを組むナナを見ながら、あごに手を当て考え込んだのである。
「つまり、ナナは普段の自分が輝いてないと……。
かわいくはないと、そう感じているということか?」
「えー!? だってそうじゃないですかー?
それって、カワイイ女の子の姿じゃないと思いまーす!」
「ふうん……。
ララとレコは、どのように考えている?」
話を振られ、さっそくフォークを手にしていた二人は、少し考えてから自分なりの答えを出した。
「カワイイか、そうでないかって言ったら、やっぱり、かわいくはないんじゃないかと思います……」
「私たちは兵器として生まれたわけですし、そもそも、そんなことを考える必要はないかと」
「うん、なるほど……」
二人の言葉を聞いた
「さて、どうしたものか……」
そして、眼前のアップルパイを睨みながら、そのようなことをつぶやいていたのだが……。
乱入者が現れたのは、そのような時であった。
「失礼!
休憩時間と聞いたのだけど、もし、よければ、その状況も撮影させてもらっていいかしら!?」
一応、この『小学校』はビニールシートで他と区分けされ、立ち入りがたい雰囲気をかもし出しているのだが……。
そのようなことは、彼女にとって関係ないにちがいない。
ヴァレン女史は、そう言いながらタープテント内に入ると、こちらの返事を聞く前に、連れて来たカメラマンへ撮影を開始させたのである。
「別に構いませんが、この区画における食料は弊社が持ち込んだものですので、地下壕内における一般的な食事事情などの参考にはなりませんよ?」
「ずいぶんと良い匂いがすると思ったら、そういうことだったのね!?
確かに、事前に取材した兵隊さんの食事や、避難民に配給されている食事とは全然違うわ!
だって、すごく美味しそうだもの!」
「そう言って頂けると、作り手としては嬉しいですね。
まだ余っていますので、よろしければ監督たちも食べられますか?」
「あら、いいの?
そういうことなら、遠慮なく頂こうかしら!」
一方、彼女が連れて来たカメラマンは撮影を続けたままだったので、そちらは少しばかり気の毒であった。
「さあ、どうぞ。
監督は、地球のイタリア出身と聞いていますので、口に合うかは保証できませんが……」
そう言いながらも、自信に溢れた態度で
いつだって、このチーフは自信たっぷりなのだ。
そして、少なくともファッションセンス以外のことに関しては、常に自信通りの結果を出しているのである。
「――美味しい!」
だから、ヴァレン女史もその美味しさに驚きの声を上げた。
「これ、本当にあなたが作ったの!?
スペイン広場にお店出してもやっていけるわ!」
「お褒めに預かり、光栄です。
老後のプランとしては、なかなか魅力的ですね」
若き天才監督の称賛に、
しかし、実際に料理人などするつもりが一切ないことは、その態度からうかがうことができた。
だが、ヴァレン女史はそのようなことを気にする人種ではない。
「本っ当に美味しいわ!
普段から、こうやって美味しいものを食べさせてもらえるから、あなた達はあんなに強いのね!」
JSたち以上の食欲旺盛さで、たちまちアップルパイを平らげると、出された紅茶をすすりながらそう言ったのである。
「でもー、どんなに強くたって、カワイイんじゃなきゃ、あんまり意味ないかなーって。
もちろん、それがあたしたちの仕事だっていうのは、分かってるんですけど」
一方、ナナは先の会話を引きずっているのか、こめかみに指を当てながらそう答えたのであった。
「ううん、格闘訓練の時もそうだったけど、ナナちゃんは今の自分があんまりかわいくないって、そう思ってるのね?」
カップを置いたヴァレン女史が、いつになく真面目な顔でそう尋ねる。
ここに来て以来、この女監督は常にさわがしく、意気揚々と振る舞っており、このような思慮深い姿を見せるのは初めてのことであった。
「だって、そうじゃないですかー。
雑誌とか、テレビに出てくるような女の子は、みんないっぱいオシャレして、キラキラ輝いてて……。
あたしは、
「ちょっと、ナナ……」
姉妹の言葉に、レコが釘を刺そうとする。
ナナの言葉は、マスタービーグル社の『製品』らしからぬものであり、少なくとも、カメラが回っている状態で口にしてよいものではなかった。
「――よし!」
しかし、そんなレコの言葉よりも、女監督が両手を合わせながら告げた一言の方が、ナナの言葉を遮るのには効果的だったのである。
「そういうことなら、あたしが証明してあげる!
確かに、流行のファッションを着ているわけでも、最新のアクセを着けているわけでもない……。
でも、あなたたちは、雑誌やテレビに出てくるような当たり前の女の子より、ずっとカワイイしキラキラしてるって!」
「あたしたちが……」
「雑誌やテレビに出てくる子より……」
「ずっとキラキラしてる……?」
ヴァレン女史の言葉に、JSたちが首をかしげた。
そして、
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