第2話♢一年のなかで一番嫌いな一日

「もう、渡したーぁ?」

「ううん、まだだよ。千紗こそ、あの先輩に渡せた?」

「ううぅ……柚奈ぁ、それ聞かないでよぉー」

松下千紗が机に突っ伏しながら呻いて、私の悪戯からかいに胸を痛めながら叫んだ。

教室中いや、校内で大半の生徒らが浮き足立っている。

今日——が最も騒がれている一日に過ぎない。

一週間前から、この話題で盛り上がっていた。

そう、バレンタインデー、である。

男子女子問わずに、そわそわしだす行事イベントである。

こんな行事イベントなんて、滅びればいいんだッ!

そう発信ってしまえば、周囲の人々から睨まれ、反感を買ってしまう。

それは、避けねばならない。

悲劇を、悲劇を……繰り返すわけには、いかない——決して、だ。

友人をからかいはするが、冗談が通じる範囲内を意識して、だ。

姉に言わせれば、、らしいが私からしたら、の範疇ではなかったのだ……嶋村あいつがしでかしたのは。

私は、嶋村あいつに好意を踏みにじられたとさえ、感じた。

嶋村かれに、想いを一蹴されたと、脳が判断した。

判断を下した、脳が。

好みに沿わないからと、……嶋村カレは。

たった、それだけで。

その年のバレンタインデー以降、嶋村に対して素直に接することが無理になった。

ホワイトチョコレートじゃないからいらない、受け取らないって、どうかしてるッッ!

取り繕おうとすら、しなかった。

そのくせ、他の女子から渡されたチョコは受け取った。

嶋村が好むチョコさえ知らない女子からだというのに。



それだというのに、私はまだ……嶋村のことを諦められないでいる。

ほんと……バカだなぁ、私。



なんで……嶋村あいつを好きでいるんだろ?



「しむーちぃ、今ってどのくらいヨォ〜?」

「ふたつ、だよ。三田原が想像してるより、少ないって」


正面で机に突っ伏し嘆く松下が居た堪れなくなり、廊下に視線を移すと嶋村と友人と思しき男子が会話をしながら歩いているのを捉える。


友チョコや義理チョコと言って、嶋村かれにチョコを押し付ける勇気は、私にはもう……ない。


現在いまの態度を、引っ込められないし……ね。


高校生になった数年後も、引っ込みがつかなくなり、嶋村かれとは溝が深まっていくのだった。



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幼馴染な妹が俺にだけ冷たい 闇野ゆかい @kouyann

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