実際にやってみたら、めっちゃきつかった。

だから俺は、ある程度マンツーマンの時間が取れるこんな自主トレの時にでも、さっきのコンビニでレモン味のグミを買ってきたとはいえ、あまり口酸っぱくは言ったりしない。





お弟子にはスイングした時の頭の位置、ブライアン君には、フォロースルーの件。まずはそれを意識しなくても改善出来るまでになってから、次のアドバイスをしていきたいと思う。





そしてこの自主トレでは、去年と同じように、俺はバットを持たない。愛用のピンクバットだって、宇都宮でみのりんとお留守番だ。




それは去年と同じように、キャンプが始まったら、嫌でもバットを振る羽目になるから。




その時に少しでも恋しく美味しく感じるように、今はバットから離れる。その分、走り込みやフィジカルトレーニングに重点を置き、この寒い環境の中で、いつも以上に体をしっかりと駆動させて、感覚を呼び覚ます。




それが出来れば、この北海道自主トレは大成功なのである。





この感じで去年も最終的には上手くいったわけだからね。




俺は半袖のトレーニングシャツから湯気もくもくと出るくらいに汗だくになりながら想定の1、5倍となるフィジカルトレーニングを終えた。





膝がプルプルしている。





「よっしゃ!最後に100球ずつティーバッティングやったら、今日は上がろうか」






「「はーい!!」」






遠征で札幌来た時にチームで泊まるところと同クラスのホテルである。




なかなかのクオリティ。





8階の広めのシングルルームを3部屋予約した。





2人にカギを渡して、俺も部屋に入り、外行きのお洋服に着替えた。




練習場でみっちりトレーニングした後は晩飯。今日は近くの焼き肉店に行く。




みのりんからのメッセージを返しているうちに2人が俺の部屋のチャイムを鳴らして合流。




そのまま歩いて焼き肉店に向かった。





「すみません、店員さん!上カルビと上ハラミを2人前!後、ライスの大もおかわりお願いします!!」





「かしこまりました!」




テーブルの向かいに座るお弟子は、俺が焼いてあげていたロース肉を2枚同時に頬張り、ライスも粒1つ残すことなく食べ進める。




特上のタン塩、上カルビを3枚ずつ、大盛りのライスも2杯、あっという間に平らげてしまった。




そしておかわりのライスも、俺が取り皿に乗せたお肉1枚でバクバクと頬張り、キムチもシャキシャキ言わせている。






「鍋川ちゃん、食べるようになったね。去年とはまるで別人じゃないか!」




「はい!ししょーに言われた通り、去年1年はたくさん食べることを目標にしましたからね!体重も結構増えましたよ!」




「へー、すごいっすね!あっ、上カルビがきましたよ。俺が焼いておきますね」




「ごくろー、2号君!」





「調子のいいやつめ」







翌日。





「はい、そのまま、そのまま!!新井さん、重心がずれていますよ、重心が!」





「あーん!!」






「ブライアンさんもしっかり筋肉を意識して! そこで耐えて、耐えて!」





「あーん!」






「鍋川さんは素晴らしいバランスですね!今度は左足だけを上げてみましょうか」





「こーですか?」




「すごい、すごい! 30秒キープしましょう!…………新井さん、ブライアンさん、休まない!」






今やっているのはシルクサスペンションというやつ。天井から吊り下げられた丈夫なゴムに体を預けて、半ば宙に浮いた状態で行うトレーニング。


テレビで見たら、芸人さんが面白いことになっていたのでやってみたくなったのだ。




吊り下げられたゴムには6箇所の持ち手が着いていて、上半身にゴムを回し、膝にも引っ掛ける形で、宙にぶらんとしている状態なのだが、これが想像以上にきつい。





不安定な体勢でその状態を維持するのでもいっぱいいっぱいなのに、足を上げてみましょうかとか、体を上下に動かしましょうとか言われる。




なんとか頑張ってやってみようとするも、ゴムの反発に耐えられなくなり、あーん!となってしまうのだ。





それは隣でやるブライアン君も同じ。俺よりもはるかに立派な体格をしていて、筋力もあるはずなのに……。




「あーん!」




「ほら、ブライアンさん!頑張って下さい!」





「は………はい………あーん!あーん!」




正直俺より出来ていない状態だ。

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