うちの実家の7倍はでかい。いや、マジで。

逆によく出来ているのが…………。






「鍋川さん、本当にすごいですね!初めてでここまでやれる方は初めて拝見しましたよ!」




フィットトレーナー的なプロポーションと格好をしている講師の女性がお弟子1号を誉め称える。




俺とブライアン君は、魔術列車殺人事件のやつみたいに、不恰好な操り人形状態になっているのだが、お弟子は宙に浮いた状態でしっかりと体の軸をキープしている。





「ししょー! これに関しては私の方が上手みたいですねえ!キャハハ!顔が面白いですよ~!」



などと、横の横にいる俺の苦しむ姿を笑顔で覗き込むような余裕すらある。





しかも、先生が指示するポーズや運動を軽々とクリアしていく。






去年バドミントンをやった時にも感じていたが、バランス感覚というか、軽やかな身のこなしという点に置いてはなかなかのものを持っているようだ。





そういうところを垣間見ると、やっぱり彼女もアスリートなんだなあと、実感するのである。





ただ体を鍛えたり、大きくすればいいということではなく、元々の運動能力というものを高めていくことも忘れてはならない。




その人が生まれ持ったバランスや感覚というものがありますから、それをしっかりと強みに変えていくことも必要なのだと、俺の心にまた深く刻まれることとなった。




「ほら、新井さんもしっかり耐えて下さい!」




「あーん!」






そんなシルクサスペンションは毎日。





朝7時に起床して、散歩をし、7時半過ぎに朝食バイキングに行く。出来る限りのエネルギーを補給して、室内練習場へ。




ウォーミングアップとキャッチボールで体を温めたら、2人は打ち込み。お互いにトスを上げあってとりあえず300球ずつ。




俺はその間に、追加のフィジカルトレーニングをやったら、今度はピッチャーとなって2人に100球くらいを投げる。




1時に室内練習場を出て、目星をつけていたご飯屋さんで昼食を取り、2時にはシルクサスペンションをやりに、ジムへ行き、それと合わせてウエイトもこなして体をいじめていく。




そのジムには立派なプールもあるので、ブライアン君と競争したりしながら、とにかくキャンプインに向かっての体作り、正月ボケを吹き飛ばすトレーニングに勤しんだ。





去年のように、バレーボールやったり、雪合戦大会に出たりとかはなし。




またおデブ懲罰を食らわないように。多少食べるものを考えたりしながら、真面目な北海道自主トレは続いていった。




そしていよいよ最終日。





変わらず、あーん!と叫んだ後、俺達は札幌駅から千歳線に乗車して、電車に揺られること1時間半。




苫小牧駅に到着した。




そして駅を出ると…………。





「ヘーイ! ブラーイ!」





逞しい男性の声が駅前に響いた。





でっかい白色のファミリーカーの横で手をブンブン振っているいかにもな体格の男性。


アメリカンなサングラス姿。



ブライアン君に着いていく形で、俺と鍋川ちゃんもその男性の側に行った。




「ようこそ、北海道へ!! 調子はどうだい?スーパースター」




男性は大きく腕を広げながら、豪快に笑った。




「新井さん、鍋川さん。父のエドワードです。山田エドワード」




「おお!ブライアン君のお父さん!エドワードさん!はじめまして。スーパースターの新井です」




「ギャハハハ! 噂通りノリがいいね!」



確かに、ブライアン君のお父さんだわ!という印象の体格のいいゴリゴリな外国人な男性。ラグビーかアメフトの選手と言われても納得出来るくらい。




元々の肌は白そうだが、顎下にモジャッとしたおヒゲがあり、日に焼けて赤みがかったお顔には逞しさがある。




「おっと、そちらはスーパースターのガールフレンドかな?」




「は、はじめまして!鍋川茉莉と言います!野球選手してます!ガールフレンドとかではなくて………」




体格のいいアメリカおじさんの迫力に、しどろもどろなお弟子1号。




俺のすぐ隣で、ペコッ、ペコッと何度も頭を下げる。




「ハハハ、ジョークだよ!ブライから話は聞いているからね。スーパースターの弟子なんだってね。まあ、とりあえず車に乗ってくれ!」




バットやらグローブやらの荷物もありますし、ホテルはチェックアウトしてきましたから、ブライアン父の車の後ろに積み込ませてもらって、早速大きいファミリーカーに乗り込む。




助手席にブライアン君が行き、俺と鍋川ちゃんはその後ろのシートへ。





「今日は新井さんの好きなものを用意しているから、楽しみにしていてくれよ!」




「はい、ありがとうございます!エドワードさん、日本語がめっちゃ上手ですね!」




「もう2年で日本暮らしのが長くなるからね!学生時代に、妻に気に入られようと、一生懸命頑張ったのさ!」




奥様との馴れ初めは大学時代。サンフランシスコの大学で、留学してきたブライアン母に一目惚れ。猛アタックの末に交際をスタートさせ、2年で日本に帰ることになった奥様にそのまま着いていく形でそのまま結婚してしまったらしい。





初めは親に大反対されたり、色々なバイトを掛け持ちして生活費を稼いだりと慣れない日本の生活で大変だったみたい。


だがこの北海道を特に気に入り、農業をしていた奥様のお父様に弟子入りを志願した。




今では東京ドーム10個分の敷地を所有するまでになったという。






そんなわけで苫小牧駅から車で走ること25分。いつの間にか田園風景が広がり、その雄大さすら感じる敷地のど真ん中にある大きなおうちというか、お屋敷の前で車は止まった。

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