お約束のハムネタですやん。

そのドーピング疑惑の時にも入れなかったフロア。球団代表の個室もあるフロアの応接間にみのりんと一緒に入室する。




すると、経理の1番偉いおじさんや選手管理部長などなど。額が額ですから、スーツを着たおじさまおばさまが合わせて3人集結していて、俺達2人を出迎えたのだった。




さっそく厳かなテーブルに着いて、軽く挨拶を交わした後に、玉露をひと啜り。




とりあえず、用意してきたお土産を渡す。




ずしっと重い箱の入れ物に、それを入れる薄いビニールに覆われた紙袋をそれぞれ3人に手渡す。





「あの、これフライヤハムと言いまして、とっても美味しいハムなんですよ〜!」




と告げてみると…………。




「ほんとに!?フライヤーズのハム持ってきたの!?」



「新井くん、君ってやつは!?」




と、選手管理部長と顧問の野球大好きコンビはおじさん大爆笑。





「…………は、はは……」




などと、あんまり野球が詳しくない経理おばさまは愛想笑いを浮かべていた。





ちなみにみのりんは爆笑側である。






「あの、経理の高木さんに説明しますと、このフライヤハムは、北海道フライヤーズの看板商品でして。いわば、最下位のチームのキャプテンである選手が、優勝したチームの親会社の看板製品である詰め合わせのハムを球団本社に持ってくるという、渾身のボケでして………」





と、丁寧に説明すると………。






「あ、あ〜!なるほど〜!」




と、ようやく自然に笑ってくれたのだった。






本来なら、こんなハム食えるか!そのまま焼却炉に放り込め!となってしまうかもしれないところを俺がやったからギリギリセーフみたいなそんなネタである。




紙袋1つで、8000円。総額総額2万4000円の費用がかかったボケを是非評価してもらいたい。






上手くウケたこともあり、応接間は和やかなムードになり、その空気感で婚約者の山吹みのりさんですと、改めてご紹介させて頂いた。





そこからは書類を照らし合わせながらの話し合い。




作ったばかりであり、まだサービスの500円しか入っていないネット銀行の口座をそれぞれ出して、今年分からの振り込みを50%50%でふるい分ける。



俺の口座とみのりんの口座それぞれに分ける形だ。




端数はとりあえず俺の方に入れてもらって。みのりんは免許証などを出してコピーも取らされながら、何枚もの書類にサインと印鑑を押した。



金額が金額ですので極めて慎重なやり取り。





そしてそれが終わると、せっかくだから用意されていたビクトリアガレットをバリバリと3枚ほど頂きながら本社を後にする。






地下の駐車場に止めたイカルガに乗り込んでふうっと一息をつく。




「みのりん、緊張した?」




「結構緊張しました。ハムネタがあったからまだよかったけど」




「これでみのりんの口座にも、半分こっこしたお給料が入るから、気を引き締めてお願いね」




「うん、任せて」






「それじゃあ、予定通りラーメン食べに行きますか」





「ラーメンキタァー!!アパパパパパパパァ!!!」
















指輪返してもらおうかしら。







プロ野球に限らずだけど、1人前に活躍したりすると、ババーン!と上がるのがお給金であって、それにきっちりとマークしてくるのが税金である。





年俸が1億だの2億だのと稼ぎ、なんでも買い漁った結果、翌年に来る税収に悩まされるアスリートは少なくない。




家だの車だのブランド物だのに全部使っちゃって、税金が払えませんわ!なんて話は結構よく聞く。



ある人は4・4・2の法則といって、もらった給料を10として、4税金4貯金。残った2をやっと自由に使う。



という考え方でお金を管理しろというやり方である。



高い年俸をもらっていても、球団に君はいらないと言われてしまったら一瞬にして収入が0になるわけですから。




でも税金はきっちり前年度分を持っていかれるわけですからね。




メジャーリーグやヨーロッパサッカーの世界では、いっぺんに給料をもらわずに、10年20年先を見据えて分割して受け取ったり、退団する時にまで半分残してもらったりと、そういう受け取り方をする人もいるという。







いずれにしても、そんな失敗をして家族に迷惑は掛けられないからね。




しっかり注意していかないと。





まるでどこかの番長のように、勇ましく暖簾をくぐるみのりんの姿を追いかけながらそう思う俺であった。






ところ変わって。






「ししょー!お久しぶりです! こうして会うのは本当に久々ですね!お元気にしてましたか!?」




「おう!去年は本当に色んなことがあったからな。気を使わせたみたいですまんかったな、お弟子よ」




「色々って、ドーピングの件とかですかね!オールスターの時の交通事故も心配しましたけど、本当に無事でよかったですよ!」




「お弟子の方も、今年はレギュラーとして1年間いいシーズンを送れたみたいでよかったね。見に行った開幕戦はどうなることかと思ったよ」




「あの時は本当にありがとうございました。ししょーの言葉がなかったら………」




「でも、いきなりのエラー連発から巻き返したのはお弟子の実力だからね。たからこそ、常に高みを目指して妥協しないこと。日々努力、日々謙虚。その気持ちを忘れるなよ」





「ラジャー」




お弟子は今シーズン。女子プロ野球の80試合全てに出場して打率2割9分7厘、25盗塁という記録を残した。





ケガで離脱していたキャプテンをサードに追いやる活躍。主に2番打者として3年ぶりにチームを最下位から脱却させる働きであった。



惜しくも、打率はリーグ5位、盗塁数はリーグ3位で、タイトル獲得はならなかったが、本人はだいぶ自信がついたみたい。




来年はまず、打率3割というのをクリアして欲しいというししょー心である。





ホームラン数が0というところは真似しなくてよかったのだが。

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