めっちゃ舐め回すように見るやん。
唐揚げやらなんやらを召し上がり。食後になって元気いっぱいになり始めたきゃらめると遊びながら順番にお風呂へ入った。
「時くんの卒アルとか見たい!」
などと、幼い頃の写真がたくさん挟まった厚手のアルバムを抱えた、風呂上がりんが俺の部屋に向かって階段を上がっていく。
俺もきゃらめるを抱っこして後に続く。
「あっ、こんな部屋なんだね!マンションの感じとあまり変わらないかも」
「まあ、テレビとゲームとパソコンとマンガにこたつテーブル。置いてあるものは変わらないね」
「阿久津さんのポスターが貼ってある。福岡時代?」
「そうそう。16年は前のやつ。この頃はまだハードバンクスじゃなくて、タイエー時代だね。福岡タイエー」
「阿久津さん、今と比べて細いね」
「確かに。確か年間15盗塁くらいはしてたからねえ」
「きゅうっ、きゅうっ!」
俺の匂いがわんさかある場所に来たからか、きゃらめるは大興奮。狭い部屋の端から端を一目散にダッシュしながら、どこで見つけたのか古い靴下をくわえていた。
「お邪魔しまーす!!お布団持ってきたから使ってね!」
「ありがとうございます、お母さん」
「毛布足りなかったりしたら遠慮なく言ってね。今日も冷え込むみたいだから。………とき、加湿器置いてあるからつけときなさいよ」
「ヘイヘイ」
「時くん、早く卒アルプリーズ」
「ヘイヘイ」
「卒業アルバムはね。マンガの棚の1番下にあるわよ!小中高全部あるはずだから!」
「ありがとうございます」
みのりんのなかなか眠らない夜で1年が終わっていくのだった。
ドドッ、ドドッ!
ドドッ、ドドッ!
試合中でもなかなか上がらない4割打者の胸の鼓動である。
年は明けまして、2019年になりました。昨年は色々と忙しくさせて頂きまして、最近はテレビやネットのCMで自分が出る度に…………うわあっ、お前誰や!?俺と似た顔しやがって!などとやるのがマイブームになっております。
だって、カッコつけながらビール飲んだり、イカルガの車のハンドルを半にやけで握ったり、牛丼屋さんのコスチュームを着て、ドンブリヤン!と叫んでニコニコしている自分が気持ち悪いんですもの。
そんな俺がどうしてこんなに胸を高鳴らせているのかと申しますと………。
「時くん。次の信号を左で2つ目の十字路を左に入ったら、私の実家だから」
「オッケー」
とまあ、そういうことである。
CMの時とは違い、険しい表情で車を走らせる。
みのりんの実家に早く着いて欲しいような、着いて欲しくないような。そんな心境で、信号を曲がった2つ目の交差点を左へ向かうと。
「はい、オーラーイ、オーラーイ!!」
と、初老の男性が俺の車を誘導しようと道に出てきた。
そのまま横にいた女性と車に近付いてきたので、窓を開ける。
「どーも!はじめまして!みのりんの父親の孝徳です!」
「妻の啓子です」
「は、はじめまして!新井時人です!!」
「あれ?4割打者ですって言うのかと思っていたのに………」
「もう!お父さん!止めてってば!時くん。気にしなくていいから!」
「はい。どーも!東日本リーグのホームラン王です!」
「君、ホームラン1本も打ってないじゃないか!」
「そうでした!あっはっはっはっ!」
「君はやっぱり面白いなあ!あっはっはっはっ!」
という流れで、結構一瞬にして仲良くなった。
おうちに入り、リビングに案内されて、テーブルを挟むようにしてソファーに座り、みのりんのご両親にご挨拶。
みのりんとの結婚を許して頂けますかと、明日婚姻届を出しに行きまして、時期的に色々アレなんで今年の11月に式を執り行いますと、そういう挨拶をさせて頂いた。
するとお父様は………。
「こちらこそみのりをよろしくお願いします」
「こんな娘ですが、末永く面倒見てあげて下さいと」
2人とも目を真っ赤にして涙を流しながら俺に向かって頭を下げたのだった。
聞けばお父さんも学生時代は野球少年であり、今はモチのロンでビクトリーズファン。
みのりんが実家に戻って話をする度に、早く俺を連れてきてくれと、そういう心境だったそうで。
「時人さん、今日はあなたの大好物をたくさん用意するから、晩ごはん食べていって!」
と、お母さん。
するとお父さんも………。
「時間があるなら、泊まっていったらどうだい? 2人でみのりの部屋を使うといい」
などとご公認。
是非お言葉に甘えさせて頂きますと答えて、献上品である、お父さんが大好きだという限定の芋焼酎と、旅行券をプレゼントして、大変喜ばれた。
「にゃ〜ん!」
警戒して物陰から様子を伺っていたお猫様にも、お近づきのおやつをあげて、今は俺にモフモフされている。
しかし、晩ごはんまでだいぶ時間があったし、支度もあるだろうし、ただリビングでお喋りしているだけではもったいない感じだったので………。
「お父さん、もしよかったらお風呂入りに行きませんか?これもありますし!」
と、俺は切り出した。
側に置いてあった朝刊に挟まっているチラシに、近くのスパセンのクーポン券が入っているのが見えたのだ。
突然そんなことを言われたもんだから、お茶を溢しそうになりながら驚いていたが……。
「いいね!行こう、行こう! 母さん、2人で行ってくるから。時人君に何か着れる物用意してあげて」
と、意気揚々とお父さんは立ち上がる。
その後、用意してもらったジャージに着替えて、スマホと財布だけを持って、みのりんの実家を出る。
お父さんの車に乗せてもらい、200円引きのクーポン券を握り締めて、国道沿いにあるスパセンへと向かったのだった。
言い出しっぺですから、お風呂代は出させて頂き、チンチンをぶるんぶるんとさせながら、俺はぷるんぷるんくらいでしたけども。
背中を流し合い、まだ人もまばらな大きな湯船に浸かる。
いもりんやあねりんの幼い頃の話を聞いたり、26年宇都宮市の水道局に勤めている働き者のお父さんですから、お仕事の苦労話を聞いたり。
高校の時は、当時甲子園に行ったどこどこ学園に負けてなどと、露天やサウナを行ったり来たりしながらさらに仲を深めていった。
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