めっちゃ息子から持っていきますわね。

この日の晩飯は、唐揚げらしい。




うちは1人っ子でしたから。


前にも言っていましたけれど、うちの母親はこうして娘と一緒にキッチンに立って料理するのが夢だったようで。




みのりんとお揃いのエプロンをして、キャッキャッキャッキャッと仲良さそうに、お肉の下ごしらえに取りかかっている。






「時人、今年も凄い活躍だったな。父さん、びっくりしたぞ」




「いやあ、俺もびっくりしたよ。打率4割どころか、1軍の試合に出れるなんて、入団したばっかりの時は想像もしなかったからね」




「最近は仕事場でも大変だよ。時人のことばっかり聞かれちゃってさ。どういう練習をさせていたんですかとか、食事はどういうのを食べさせていたんですかとか」




「あらら。それは大変ですわね。対して何もしてないのに」





「そうそう!あっはっはっは!」




父さんはそう笑って、ここぞとばかりにスターラガーのビールを煽る。




1人でビール飲みやがって。俺はそのビール宣伝してるんですけど。




パチンコばっかりだった息子が急にプロ野球選手になり、地元チームの主力。年俸1億円。CMも年明けからバンバン。しかも、料理上手な嫁さんを連れてきたとなればこれ以上幸せなことはないのかもしれない。





しかし、父さんにとってそれらをまとめて上回るような朗報があった。





「そうそう、言い忘れるところだった。実は朝日TVのお正月番組あるじゃない?卓球選手とか、ゴルファーとか出るやつ」




「おう。もしかしてガチ野球盤?……………まさか、お前!」




「実はそのまさかでして………大活躍しまして、MVP賞の車をゲットしちゃいましたー!」





「なにー!?」





「とはいえ、ご存知でしょうが、私はイカルガ自動車側の人間でして、もらった車は別のメーカーさんのものですから、乗れませんくて…………車いる?」






「いる!!」






「じゃあ、俺の分のおかわりビールも持ってきたまたえ!」






「はい、ただいまー!!……………お待たせ致しました!!スターラガー、冬ラベルでございます」





「ご苦労」






「ははーっ!!」









人間とは愚かよ。







そんな感じで実の父親相手に王様プレイを勤しみ、みのりんのお父さんもゴルフやったりするかなあ?なんて聞かれたりしながら、ビールを飲みつつ、うっとりするきゃらめるをなでなでとしながらぼんやりとテレビを見ていた。







そして30分後。香ばしくいい匂いがしてきて、みかんの皮やビクトリアガレットの包み紙などを片付ける。




「お待たせ! さあ、食べましょう、食べましょう!」




「はい、時くん。お箸。このブルーのでいいんだよね?」




「そうそう。黒いのは車貰えてホクホク親父のやつね」




「お父さんは、おビールもお注ぎします」




「お嫁様、ありがとうございます!!」






みのりんを交えた新井家の食卓は、片栗粉もまぶしたザクザクの唐揚げと、ローストビーフのサラダ、そして豚汁。




一体息子に何肉を食わしたいねん!と、そんな気持ちになりながら、とりあえずはローストビーフのサラダを頬張っていたのだが。





「そうだ、そうだ!母さん、馬刺しあるよ、馬刺し!」




「あら!そうだったわ!今持ってくるわね!」




俺がみのりんを連れてくるからと、隣町の専門店に行って買ってきたもの。




専用のタレとスライスニンニクを一緒にして食べるのだが、これが美味い。






「あっ、そうだ!息子からも2人にプレゼントがありまして……」


俺は唐揚げをモグモグとしながら、棚に置いていた封筒に手を伸ばし、それを母親に渡した。




「なにかしら」





「あれよ、あれ。プレミアム12の副賞でもらった100万円分の旅行券。20万円分入ってるから、好きに使ってくれ」




「もらっちゃっていいの!?」



「おう!それ使って俺もみのりんと熱海の高級旅館に行ってきたからね。楽しかったよね」




「うん!楽しかった!相模湾が一望出来る旅館で、お部屋も今まで泊まったことがないくらい豪華な部屋でした。………プライベートの露天風呂もありましたし」




「羨ましいわね!お父さん、来月中に金沢行きましょう、金沢!前から行きたかったのよ~!」





「あはは!分かった、分かった!」




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