これからは銀玉物語よ。
「耳栓の付け方分かる?」
「うん。大丈夫」
と答えたみのりんは、受け取った耳栓をそのままぺろんぺろんしたくなるお耳に当てがったので、俺は喝を入れた。
「耳栓は先っちょをつまんでくるくるさせて、耳たぶを持ち上げながら、耳の奥に突っ込むに決まってるじゃろがい!」
「す、すみません!」
みのりんはびっくりしながらも、俺の言った通りに耳栓をくるくるして両耳に差し込んだ。
「どう?くるくるした耳栓が膨らんできたでしょ?」
「うん。あっ、すごい!うるさい音は聞こえなくなったのに、時くんの声は聞こえる」
「そうそう。ちゃんと使うとそういう風になるんよ。じゃあ、とりあえずあっちにあるパチンコ台に行ってみようか」
「うん!」
みのりんを引き連れて、かつて自分が働いていたパチンコ店のシマを練り歩く。
客つきはパチンコ・スロットトータルで4割くらい。平日の昼間というのを考えればまずまずという感じだ。
最近入ったばかりの新台や爆発力のある人気機種に空きはなく、向かった先は比較的当たりやすい台が並ぶ甘デジコーナーだ。
16台×2列の32台ボックスシマに、大当たり確率が99分の1から128分1までの様々な機種が並んでいる。
甘デジ故、出玉性能はマイルドなので他のお客さんはチラホラしかいない。そんな中俺が選んだのは、川釣り物語。
パチンコ台の盤面に釣竿と大きな魚の役物が付いた初心者でも分かり安い非常にシンプルなタイプの機種だった。
「よし、これにするぞ!みのりんはこっちの台だ」
「分かった」
甘デジコーナーの端っこにある2台並びの台。みのりんを角台に座らせ、俺はその隣へ。
「お金入れるんだよね?いくら入れればいい?」
「そりゃあ、景気よく諭吉さんよ」
「なるほど。………どこに?」
「左上だね。そこに立ててウイーンと」
「オッケー。入った」
「お金を入れますと、手元のデジタルに数字が出まして」
「あっ、100って出た」
「ケツの00が省略されて10000円入ってますよってことだね。そしたら、貸玉ボタンを押すのだ」
「なるほど。ポチっとな」
みのりんが俺を弄ぶ必殺の人差し指でボタンを押すと、待ってましたと言わんばかりに銀玉が排出される。
「ここは4円パチンコだから、1プッシュで500円分、125玉出てきます。玉があったら、ハンドルを回すと、その回し具合で玉が出る強さが決まり………」
みのりんが俺を軽く制圧する右手でハンドルに手を掛ける。すると、パシュンパシュンと、パチンコ台の盤面に玉が発射され始めた。
「台のヘソって言うんだけど、液晶画面の下に、スタートって書いてあるポケットがあって、そこに玉が1個入ると、1回転する仕組みです」
「なるほど!強さはこのくらい?」
「そうだね。でも、もうちょい弱めがいいかも」
「このくらい?」
「そうそう」
こんなご時世ですから、釘は渋めでして、最初はなかなかヘソに玉が入らなかったが20玉ほど打ったところで、2つ続けて玉が入っていった。
トゥントゥントゥントゥントゥン!
軽快なベース音に乗って、液晶の図柄が動き出す。
俺が選んだのは渓流物語。パチンコ史上最強の海シリーズの流れを組んでいるいわゆる川バージョン。
液晶画面を囲むように、大きな釣竿の役物が付いており、それの動き方で大当たりの期待度が変わったりする。
図柄は、カタツムリだったり、サワガニだったり、親子カエルだったり。
向こうはマリンちゃんだが、こちらはショートパンツとボーイッシュな印象が魅力のナツミちゃんが液晶上で大活躍するのである。
みのりん氏、パチンコデビューから5分。1000円を使い切ろうとしたところでビッグチャンス。
ぱきゅーん!!
「……ふごっ!? びっくりした!なにこれ、すごい赤い!」
「赤保留が入ったね!期待度60%の激アツ演出だよ」
「赤保留?」
「ほら、液晶の下のところにヘソに入った分のカウントが待機していて、色が変わるとチャンスなんだよ。赤は金の次にアツいのだ」
「なる……」
ほどと言おうとしたところで、その該当保留がやってきた。
ぴしゃーん!と雷が鳴り、図柄のお魚達が驚くようにして飛び上がりながら動き出す。
液晶の中は、大嵐。風がビュービュー、雨ザーザー。釣竿は熱海の2日目夜のみのりんのように、1番激しくしなり動く。
釣竿を持つナツミちゃんも現れ、ヒットする。
「リーチ!!………大チャーンス!」
リーチ時、ナツミちゃんの大チャーンスボイスは期待度60%オーバーの激アツ演出である。
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