耳栓はマストですわよね!

「私、これに応募する!!」




そう言ってみのりんは、自分のスマホ画面を俺に見せつける。




週間東日本リーグ、一般の方向け掲載コンテスト。




みのりんが鼻息を荒くするのは、野球雑誌のコラム関係。白黒ページにある一般応募という企画。




野球関係、プロ野球ものなら、小説でも漫画でもコラムでも検証記録でも何でもよし。最近雑誌の売り上げがいいからと始まった企画のようで応募締め切りが1月末。あと1ヶ月ちょっと。




これにみのりんは、日頃書き溜めていた小説を応募すると、高らかに宣言したのだった。





「こんなチャンス2度となさそうだし、私頑張ってみるよ」




「おう!気合い入ってますね」




「そこで時くんにお願いがありまして!」




「なんだね?」




「もっと君のことを教えて!」




「もうだいぶ知っているのでは?あんなことやこんなことも」




「そうじゃなくて。もっと昔のこと。時くんの学生時代とか、プロ野球選手になる前の話」




「ああ、そういうこと。いいよ。何でも教えてあげる!」






その日の夜、一緒に寝る時に聞いた話では、出会ってから毎日のように俺がした野球についての話を題材にしながら、お隣さんはプロ野球選手という、越したきた野球選手に恋をする陰キャ眼鏡女の恋物語みたいなものを書いていたらしい。






しかし、どうもにっちもさっちもいかないということで、もう他人ならぬ関係ではないので、新井時人物語という感じ。




俺の半生を語るような。もうそういうのを書いちゃえという気持ちになったらしい。使えるものは何でも使えと、何ふり構わないそんな姿勢。




というわけで翌日。朝早くから、俺とみのりんはイカルガに乗って宇都宮市からおよそ東へ50キロ。





俺の生まれ町である那須塩原市にやってきた。俺が中学生の時に、塩原町と西那須野町と黒磯市が合併して出来た市。人口10万人ほどのちょうどよく中途半端な田舎町である。




そこにブイーンとアクセルをふかしながらやってきまして、まずは中山小学校へ。




学校の敷地内を囲むように遊歩道が出来ていまして、開拓した名残がありまくりの森が真っ盛りという雰囲気。



結構グラウンドが広くて、野球とサッカーとソフトボールが同時に試合が出来るくらいのスペースがあり、グラウンドを半分に分けるように、天然芝が伸びていて、グリーンベルトと呼ばれていた。




ここをノーバウンドで越えると柵越えホームランになるルールがあった。俺は1度も打てなかったが。



打たれたことは何度もあったけど。




学校の敷地内には入れないので、フェンス越しにスマホを向けて、俺の思い出話を聞きながらみのりんはたくさんノートに書き込んでいた。






続いて向かっのは、南那須野中学校。中山小学校から車で5、6分の距離にある。




俺の時を含めて県大会を4度制覇している中学軟式の古豪であり、俺はそこでキャプヨバエースでしたからねえ。




ある意味俺の黄金時代であった。





次はそこから駅2つ分。12、3キロ離れた高校に向かう。あんまりいい思い出なかったんで、学校の名前とかは忘れちゃいましたけども、とりあえずそこにいった後は、僅か半年間だけいった社会人野球チームへ。





今は会社名も業態も変わってしまいましたが、リフォームされた建物は残っていまして、同時ショートを守っていた、甲子園出場経験もある先輩が出世していまして、ビクトリアガレットを手土産に訪問させて頂きました。



同時のボクちんの話をしてもらったり、会社の門の前でバットを構えさせられて記念撮影したりと、他の社員さんも表に勢揃いしてしまって大変な騒ぎに。





そんなこんなで最後に向かったのは、2年前まで勤めていたパチンコ屋だった。




パーラータカラヤ




創業55年。地元の中でも1番の老舗パチンコ店である。




栃木県内に7店舗展開する小規模グループ。その3号店。




国道4号線沿いにあり、左手に回転寿司、向かいに海鮮居酒屋、右手カーショップがある。






「ここかぁ。時くんがずっとアルバイトしてたパチンコ屋。パーラータカラヤさん」




「おう。いやぁ、ずいぶんとお世話になりましたよ」




「そうなんだ。結構建物きれいだね。車もたくさん停まってる」




「みのりん。せっかく来たからパチンコ、やってみる?」




「パチンコ? やってみたい!」




「ちなみにご経験は?」




「1回も……。お父さんが昔やったことあるという話を聞いたことがあるくらい」



「あらそう。俺が手取り足取り教えてあげるよ」



「ありがとう。じゃあとりあえず、お互いの足、結ぼっか」




「なんでだよ」




テンションが上がったからか、みのりんはそんな冗談まで口にする。



そして、物珍しそうに、青と黒で塗り分けられた外観やネオンを眺めるみのりんを引き連れて、俺は店内へ。






風除けになっている2重の自動ドアが開くと、エアコンの温かい空気と一緒に、ジャンジャンバリバリとパチンコ屋特有のやかましい音が耳に入る。





「やっぱり、すごいうるさい」




「初めて入ったらそうかもね。耳栓使う?」




もう何年前のか分からない。どこのパチンコ屋でもらったのかも定かではない、端玉で交換出来る安い耳栓。





さっきアルバムを出そうとした時に、コロンと部屋で出てきたマーブル色の耳栓だ。




それがちょうど2つあったので、小さなビニールの包みに入っていたそれを破ってみのりんに差し上げた。







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