めんどくさい親ですわよ。
「時くん。ワンちゃんが暴れないようにちゃんと持ってて」
「オッケー」
びっしょびしょのシャツを洗濯機に入れてパンイチのお風呂場。シャワーノズルを伸ばし、ワンちゃんのイラストが入ったプラスチック製の桶を用意して、子犬の胴体をがっしりと掴む。
みのりんはボディーソープを両手で泡立てた後、なにすんねん!と、そんな顔で抵抗する子犬の体をワシャワシャと洗っていく。
しかし、わりかし気持ちいいのか、子犬はしばらくみのりんにされるがまま。濡れたタオルで顔もゴシゴシされ、ドライヤーで乾かされられると、すっかりきれいに、まるでぬいぐるみのようにふわふわになった。
俺もシャワーをお借りして、大将が使っているであろうボディシャンプーで体を洗い流す。
息子さんのやつだというシャツとおパンツを貸して頂き、居間に入ってみると、おこたに入ったみのりんが膝の上にワンちゃんを乗せ、羊羹を頬張っていた。
俺もその隣に入る。
「ク〜……ク〜………」
子犬は、俺の存在に気付くや、嬉しそうに立ち上がって走り回り、俺の背中でカリカリ。一旦みのりんの上に戻ったかと思うと、やっぱりこっちやなと、俺の膝の上に飛び乗り、キュウキュウと甘えるような声を出した。
上に乗っかってキュウキュウ鳴く。
昨晩のみのりんと同じである。
「あら!すっかりあなた達になついたみたいね、そのワンちゃん」
「あら!女将!シャワーお借りしました!バスタオルとシャツとおパンツもありがとうございます!」
「全然いいのよ! 天下のスーパースターさんがいらっしゃったなんて、一生の自慢になるんだから!気が済むまでゆっくりしていってちょうだい!」
「それはどーも!それじゃあ明日の朝までお世話になります」
「今日の晩ごはんは、ロールキャベツなんだけど、それでよろしいかしら!」
「ギャハハハハ!」
「キャハハハハ!」
そんな感じで、この細矢さんとはすぐに仲良くなった。
お店の自慢だという羊羹をごちそうになり、でっかい湯飲みでお茶もいただいた。
「これ、今東京で働いている息子が置いていったのなんだけど………」
横の部屋の押し入れを何かガタガタとやり始めたなあと思ったら、女将さんは小型のケージを引っ張り出してきた。
「よろしいんですか?いただいちゃって」
ケージの中からコロンと落ちてきたおもちゃをみのりんが拾い上げた。
押すとプープー鳴くアヒルのおもちゃだ。
「いいの、いいの!もうおっきいワンちゃんになっちゃって入らないからね。大掃除の時に処分しなきゃって思っていたから!ちょっとホコリかぶってるから、拭いておくわね」
ケージだけではなく、ペットシートも20枚程いただいちゃって。おもちゃも数点。
そのお返しというわけではないが、自慢の羊羹も美味しかったので、自分らのと、それぞれの実家へお土産用に1番大きな練り羊羹をお買い上げ。
男の子2人が持って帰ったお饅頭の詰め合わせと合わせて1万5000円のお支払いとなった。
なんや!こんなとこに入れやがって、何処に連れていく気や!!
と、興奮していた子犬ちゃんも、みのりん部屋に着く頃には疲れてしまったのか、おもちゃを抱き締めるようにしながらすやすやとなっていた。
「時くん、このワンちゃんどうする?飼うの?」
「なんだか俺達に凄くなついちゃったしね。なんだか情が沸いたと言いますか」
「すごい分かる」
「とはいえ、このマンションはペット禁止だらね。置いとけても2、3日か。とりあえず明日病院に行って、検査と注射だけしてもらって。まあ、しょうがないから、うちの実家で面倒見てもらうか」
という具合で母親に電話してみたのだが………。
「あんた!急にそんなこと言ってもうちじゃ飼えないわよ!ゴールデンレトリバーなんでしょ!?すぐ大きくなるし、散歩だっていつ行けばいいの!?
散歩用のシューズと、レインコートも準備しないといけないし、贔屓の動物病院とか!評判いいところ探すの大変なのよ!?
ご飯だって安物ばかりあげられないでしょ?おやつとかも色々調べないといけないし!こっちは宇都宮と違って、ワンちゃんグッズ専門のお店は少ないんだからね!可愛いお洋服とか!そうそう!毎月美容院で可愛くカットしてもらわないといけないし!それにそれに………」
後日。また、みのりんの顔もみたいと、父親に車を運転させて、ニッコニコで迎えにきたのは言うまでもない。
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