第5話 大切な仕事

 ルイが静まり返った、薄暗い新婚夫婦の寝室へ戻ると…



「やっと帰って来たなルイ、ドコまで散歩に出かけていたんだ? もう少しでお前を、捜しに行こうかと思ったぐらいだ!」


 瞳をギラギラと血走らせて、コウイチがベッドに座っていた。



「…コウイチさん?! なぜ、ココに…?」

「さぁ… なぜだと思う?」

「アナタは…」

「私が選んだお前の妻は、良い女だろう? どうだ、初夜は上手くいったか?!」


「・・・・・っ」

 ルイの顔が強張った。



「子供は出来そうか? お前は大切な仕事を上手く果たせたか?!」



<ああ… この人は… 私が妻とこうなるコトを予想して、計画的に私をこの状況に追い込んだのか? 恐らく、そうに違いない!!>


 フゥ―――ッ… とルイは、大きなため息をいた。



 ルイの読み通り、最初から妻役の女優を雇い、コウイチの指示通りに演じさせていたのだ。

 

 婚姻届けも後からスグに妻役の女優が役所で回収し、ルイは実際には結婚もしていない。



「…私が、アナタの命令通りに彼女を身籠みごもらせていたら、アナタはどうするツモリだったのですか?」


「お前に限ってそれはありえないだろう?」


「確かに… そうですが…」

 苦笑いを浮かべて、ルイは上着を脱いで丁寧にハンガーに掛けると…

 ベッドに座るコウイチのヒザに座った。



「私の負けです… アナタの望み通りにします」

 広い肩に手を置き、ルイはコウイチの美しい瞳を見つめる。


「やっと理解したな? ルイ」

 満面の笑みを浮かべて、コウイチは自分のヒザに乗るルイを抱きしめた。



「はい」

<アルファの執着にはかなわない…>


 ルイも笑みを浮かべた。



「ルイ! 愛してる、私のモノだ!!」


「コウイチさん、私も愛しています…! 本当はずっと、そう言えなくて苦しかった! アナタを愛していると!!」


「コレでやっと私たちは、愛し合える! そうだろう、ルイ?」


「いくらでも… 好きなだけ、私を愛して下さい、コウイチさん! 私も愛しますから!!」


「やっと… お前の全てが、私のモノになったな」



 力いっぱい苦しいぐらいに、コウイチに抱き締められ…

 我慢していた涙が、ルイの瞳からあふれだした。



「ごめんなさい! 無神経でヒドイことをたくさん言って、アナタを苦しめてしまったコトを… どうか許して下さい!」


 広い背中に腕を回し、コウイチに負けない力で、ギュウギュウとルイも抱き締めた。



「私を一生愛すと誓えるのなら、許しても良い!」

 笑いながらコウイチは、傲慢ごうまんに言い放つ。


「ふふふっ… 誓います! アナタの隣りでアナタを一生、愛します! だからあなたも誓って下さい、私を二度と手放さないと… アナタは私のモノだと!」


「私は一度もお前を手放したコトは無いが! だが誓う… お前を放さない! お前はコレからも私のモノで、私はお前のモノだと」



 ルイは泣きながら笑みを浮かべ、自分が犯した過ちを、コウイチに許されたと知り安堵した。



 この夜、2人だけの結婚式を挙げ…

 2人は心で結ばれたつがいとなった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る