川でのごみ拾いのおかげで少し筋肉痛。そう、僕は帰宅部なのだ。どんなスポーツにも涙を必要とするドラマがあるんだ。全国で優勝したい、みたいな大きな夢を掲げて、そこに向けて仲間と頑張る。なんて素敵なんだろう。でも僕は、運動音痴で仲間と頑張ることは苦手だ。せめて見るだけにしたい。運動ができる恵まれた人だけが、ああやって目標を掲げて頑張ればいい。僕はもういい。

彼女の隣を歩いてしばらく。

「今日は森林浴。ごみは拾わないよ」

木々が生い茂る中での深呼吸は異常なくらい気持ちがいい。痛いはずの日差しが少し気持ちよく感じた。でもやっぱり気になった。これで本当に将来のことを考えるきっかけになるのだろうか。こんなのただの散歩じゃないか。昨日もそうだった。あれはただのボランティア活動だ。社会貢献がいいのか、自由を求めているのか。彼女の考えは理解しがたい。

「私は知ってるよ。君が毎日頑張ってること」

彼女はベンチに座って笑った。僕も向かい側に座る。僕は必死に何もなく生きる努力をしているつもり。勉強からは逃げている。家族からの圧が怖かった。僕のささやかな反発だった。学校は勉強をするところ。だから、僕が頑張っているように見えるなら、勘違い。それか、話題がなくて適当に話しただけ。そんなところだろ。

「僕は頑張らない」

僕はそうつぶやいてみた。彼女はいつも周りに人がいて、いつも笑顔で、勉強もできているようだし、運動も人並み以上にできるらしい。僕はそんな彼女に全力で追いつこうとしても無理だ。だから、僕はあくまで本気を出しているわけではありませんよ、と言いたかった。

「いーや、私は君が羨ましいよ」

彼女はスマホを取り出し、僕を撮った。顔を隠す暇もなく、あっけなく撮られてしまった。彼女はどうやらその写真を見て笑っているらしい。君の顔が学校の時より楽しそうだって笑っている。僕も思わず笑った。

「僕も君が羨ましい」

彼女は驚いたような顔をしたが、またすぐに笑顔になった。山頂まで行って景色を見たいらしい。僕はうなずいた。彼女がどうして僕のことを羨ましいと思うのかは知らないけど、彼女も彼女なりの悩みを持っているとするなら、と思った。彼女の笑顔のその奥に、こんな平凡すぎる僕を羨ましがる理由があるなら、笑顔を引き剝がさずにと思った。

山頂から眺めた僕の町は不思議なくらい小さくて、世界中探してもここより広いところはないと本気で思い込んでいた昔の自分を、ここに連れてきて嘲笑したいと感じた。昔から変わらず僕は馬鹿だから、昔の自分を下に見れば僕は馬鹿じゃない、底辺ではないと錯覚できる。昔の自分以外はみんな上にいるから、どちらにしろ底辺なのだが。ふと彼女のほうを見てみると、彼女はまっすぐな眼差しで小さな町を眺めていた。朝日に照らされる彼女の横顔はなぜか真っ白な綺麗な花に見えて、不思議な気分になった。

「_私は、私として生きたいな」

真っ白な花が揺れる。僕はその言葉にはうなずくことしかできなかった。君ならきっとできるよ、と口を動かそうとしたが声が出なかったので、いつか言おうかなんて考えているうちに、僕は彼女に微笑みを投げかけていた。

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