第16話 ディエッタ領


 フリストがヴァーミリオンの辺境伯に任ぜられた知らせはディエッタ領の人間の耳にも達していた。


知らせを聞いた領民は皆、その知らせに歓喜した。


「おい、聞いたか?我らのフリスト様がヴァーミリオン公女と共に、王国を守護するらしい。」


「ああ、もちろんだとも。王国もやっと、フリスト様のすばらしさに気が付かれたのか。」


「それにしても、死神の正体が坊ちゃんだったなんて、驚いたよ。」


「ああ。この数年で何があったんだろうな。」


時を同じくして、その知らせに手を合わせる者がいた。


「フリスト様。」


その日、セリカはいつものように教会にフリストを思いながら、彼の無事を祈り続けていた。


そして、領主館では、


「まさか、フリストが辺境伯になるとは。驚いたことに死神の正体もあいつだったか。」


ディエッタ男爵は国王に会いに行く支度をした。


「急ぎ、陛下に詫びを入れねばならぬ。愚息が、村を占拠していたのだからな。下手をすれば、我が家が滅ぼされてもおかしくないことをしでかしたのだ。」


しかし、男爵は冷静だった。息子が辺境伯ともなれば、ディエッタ家の名声はさらに増す。


また、息子が罰せられなかったことが、ディエッタ家に罪が問われないことを意味していた。


「しかし、フリストも辺境伯とは名ばかりで、陛下にしてやられたな。」


フリストが領地とする辺境伯領はセッラ族が支配する領地でもある。おそらく、王国はフリストを利用し、セッラから王国領を奪還させるつもりなのだろう。


つまり、フリストはセッラを討伐しながら、辺境伯領を得ていかなくてはならない。


領地など皆無に等しいのだ。


「さあ、どうする?」


ディエッタ男爵はコートをまとい、その場を後にした。



3日後、国王よりフリストを支援する許可を得た男爵はステファンをヴァーミリオン村へ派遣した。


「ステファンよ。そなたはこれより、フリストの部下である。奴のもとへ行き、支えてやってくれ。」


「ハ!ご命令とあらば!」


(いよいよ、坊ちゃんに会えます。今、行きますね。)


数年ぶりの再会に期待を膨らませ、ステファンはヴァーミリオン村へ馬をすすめた。


道中、セリカがステファンに近づく。


馬を止め、下馬したステファンは彼女に近づく。


「セリカさん。どうしたのですか?」


「フリスト様にこれをおわたしください。」


そうして、彼女はステファンにそれを手渡す。


「これは?」


「お守りです。フリスト様に幸ありますように、私が手作りしたものです。」


それは魔石が埋め込まれた装身具だった。そしてそれは、ディエッタ領に伝統的に伝わる戦勝祈願のお守りである。


「わかりました。おわたししましょう。しかし、あなたはフリスト様のもとへ行かなくても良いのですか?」


「はい。私も本当はいっしょに行きたい。でも、年老いた親をおいては行けません。」


「・・・そうですか。」


そして、ステファンはディエッタ領を後にした。

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