第17話 串刺し公フリスト


 正式に王国から、爵位を授与され、辺境伯となった俺はある問題に頭を悩ましていた。


そう!食糧問題である。


なんだかんだ住民も増え、農業もしているので、野菜や穀物は自給自足でいける。


だが、肉がない!いや、あるにはあるのだが、肉は腐敗するのが早く、長期保存も困難である。


毎日、獲物をゲットできるわけでもないのだ。そこで、俺たちは貴重なタンパク質を捨てることなく、長期保存できる術はないものか思案していた。


そこに助け船を出したのはヤスエである。


「干し肉なんかいいんじゃないか?」


「干し肉?」


はじめて聞く言葉だが、なんかうまそうである。


そこにレイスも発現する。


「確かに、それは妙案ですね。しかし、我がヴァーミリオンの書物にも太古の昔にその調理法は廃れ、どのように作るのかが、わかりません。アストリア様は何かご存じですか?」


「いや、我が王国でも干し肉の技術はない。ヤスエ殿は調理法を知っているのか?」


「ああ。私はもともと傭兵だったからな。古今東西あらゆるものを生きるために食ってきた。我流だが、私が編み出したサバイバルスキルは役立つと思うぞ。」


ヤスエ曰く、肉の脂身を除き、赤身を薄切りにする。


その後、塩水に一晩つけ、干すだけである。


しかし、ここでのポイントは干す場所である。


直射日光は肉の温度が上がりすぎ、腐敗の原因につながる。


そのため、日陰のある場所に干すことが大切なのだ。


俺たちは早速、村中総出で、肉の調理を始めた。


日光をある程度確保しつつ、日陰も確保する。初めは素直に日陰に干した。


だが、俺はあることを思いつく。


そういえば、セッラ族の鎧ってまだあるよね?長い棒を突き立てて、肉を串刺しにし、鎧で肉を覆えば、もっとたくさんの干し肉が作れるし、生産性も向上するのでは!?


思い立ったら、すぐ行動が俺のモットーである。それを皆に伝えると、ヤスエを始めとする、村中の皆が賛同し、実行した。


数日後、数百の串刺し干し肉が鎧に覆われた状態で完成した。


こうして、食料事情が解決されたのであった。



時を同じくして、セッラ帝国の100人隊長は敵地であるヴァーミリオン村に奇襲を仕掛けようとしていた。


そこで、あるものを目にする。それは、かつての同胞たちの変わり果てた姿であった。


無数の死体が串刺しになっている。


そこにいたセッラ兵たちは皆、恐怖した。自分たちはとんでもない奴と敵対しているんだと。


中には、気を失う者、失禁する者、泣き叫ぶ者などおり、もはや軍としての機能は失われていた。


それを見た100人隊長は思わず口にした。


「串刺し公」


その日、フリストの知らぬところで、セッラ軍の戦意を喪失させ、退却させた。


こうして、フリストの異名は『死神』以外に新たに『串刺し公』と呼ばれることになる。


『串刺し公』の異名は後の歴史に残り、彼の伝説の一つとなった。


『串刺し公フリスト』の誕生であった。


しかし、彼らが死体の串刺しだと勘違いしたそれは、ただの干し肉だったのである。


それを彼らも後の歴史学者も知る由もない。

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