第14話 剣姫アストリアとの一騎打ち


 アストリアは腰からレイピアを抜き放つ。


腰の重心を低く構え、片手剣のように俺に切先を向ける。


これが、シュタイン流剣術の構えか。


俺たちの田舎流派とは違い、王都で流行するだけある美しい構えだ。


シーーーーーーーーーーーン


しばしの静寂が互いに緊張感を与える。


こうして、向かい合っているだけでもわかる。さすが王国最強の名は伊達ではないということか。


一つの木の葉が風に揺られて地面に落ちる。


それが、開戦の合図となった。


王女の刺突が、俺の頬をかすめる。


間一髪、俺は納刀された鞘で王女の剣の軌道を受け流す。


「!」


王女は驚きのあまり、目を見開き、俺と目が合う。


刹那、俺は重心を低くし、王女の背後から、居合斬りを放つ。


ドドドドド!


王女は素早く反転し、刺突の応酬が俺の居合斬りの威力を弱める。


互いに、横をすり抜ける。


互いの服の袖に切れ目が入る。


王女は振り向き、言った。


「さすが。死神殿だ。今までの剣士で私に傷をつけた者は貴殿が初めてだ。認めよう。貴殿は私に劣らぬ猛者であると。そして、貴殿の剣から貴殿が信用に足る男だということも確信した。よこしまな者に貴殿のような剣術はあつかえないだろう。」


「では、もう戦うのはやめませんか?」


「それはそれ。これはこれだ。最初に言っただろう。私が一度剣を抜けば、容赦はしないと。この試合を終わらせたければ、力ずくで、終わらせるのだな。」


「そうですか。では、遠慮なく。」


 互いに大地を蹴り上げ、一瞬で肉迫する。


キンキン!カーン!ドン!


鋭い刺突の嵐と俺の剣激があたり一帯の地形を徐々に変える。


暴風の如き突きは王女の必殺技なのであろう。


であれば、俺もとっておきをだそう。実戦で、これを試すのは初めてだが、一か八かだ。


『一閃!』


二つの技の衝突を起点にあたり一帯に嵐の如き強風が吹き抜ける。


ギャラリーたちは皆、地面にはいつくばっている。


「すごい!これが王国最強と死神の戦い。」


一人の騎士が思わず声を発する。


「当然だ。我が主の剣は剣聖の頂に立っているのだ。王国最強に劣るなど、あり得ぬのだ。」


「フリスト、お前はどこまで強くなるのだ。もう、私が教えられることは何もないじゃないか。師を超えるとは生意気な奴め。」


ヤスエは嬉しそうに語った。


主様あるじさま。それでこそ、我が生涯をささげるに足る方です。我が父も喜んでいます。とても素敵です。」


誰がみてもわかるほど、レイスがフリストを見つめる顔は乙女のそれであった。


嵐の如き風が止み、砂煙が徐々に消え、二人の人影がはっきりと確認できた。


フリストの剣が王女ののど元につきつけられ、王女はレイピアを手放していた。


「完敗だ。まさか、ここまでとはな。」


「光栄です。剣姫様けんきさまにそう言っていただけるとは。」


「私から父王ちちおうに伝えておく、貴殿は我が敵ではないと。」


「感謝します。」


「それと、私は決めたぞ。死神殿、私もここに住むことにする。」


「「「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええ!」」」」」


そこにいた全員の驚く声がはもった。


「だって、私は私より強い男が好きなんだもの。死神殿、あなたの正体はフリスト様なのでしょう?」


「なぜ、それを!?」


「わかりますわよ。あなたとエドの様子を見ていれば。でも、気にしなくても良いですよ。私はあなたを全面的に守ります。王国やご実家の男爵家が、あなたを罰そうとしてもね。」


マジかよ?ていうか、王女キャラ変わりすぎじゃね?


もしかして、こっちが素で今まで、猫かぶってたんですか?


「王女様!困ります。」


背後からレイスの怒鳴り声が聞こえた。


「あら、あなたはどちら様?」


「私はレイス・ヴァーミリオン。元ヴァーミリオン公女であり、フリスト様の未来の妻です。」


「公女殿!生きていたのですね。お父上のことは無念でした。我が王国も惜しい方をなくしました。ですが、フリスト様の妻発言は聞き捨てなりませんね。フリスト様は承知しているのですか?」


「もちろんです。我が家宝の雷切を受けとったのです。つまり、それは我が名跡ヴァーミリオンを継ぐことに他ありません。その証拠に、この村の名はヴァーミリオン村です。そう、主様はすでに、ヴァーミリオンとしての自覚がおありなのです。それを支えるのは正妻たるわが定め。」


ええええええええええええええええええ!そうなの!?レイスが剣くれたのって、そういうことなの?ていうか、何?俺今まで、村の名前とか、王家に敵対しないようにヴァーミリオンの名を使っていたけど、それもレイスの中ではこういう計画に結び付いていたの?


女って怖い。


「おい、待て。いつ、お前が正妻になったのだ?」


「ヤスエ様?」


「フリストの正妻は剣の師である、この私だ。レイス、お前は側室だろう?」


「いくら、ヤスエ様でもこれは譲れません。正妻は私です。」


「ちょっと!私を忘れてない。」


二人の会話に王女も交わり、俺たちはそれを唖然として見ていた。


ちょっと待ってよ!師匠まで何言っちゃってんの!俺に気なんてあったの?


何か三人の女がバチバチ、メンチきってて、俺はすぐにこの場から逃げ出したいです。


兄上、助けて。


兄上を見ると、スッと視線をそらされました。


兄上ええええええええええええええええええええ!(泣)

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