第3話 セリカの後悔
「セリカちゃん!好きです!結婚してください!」
穏やかな春の日、私はディエッタ男爵家のご子息様であるフリスト様に告白されました。一瞬何が起きたのかわかりませんでした。それが聞き間違いなのかとも思いました。私のような村娘にそんなことがあるはずないと。
でも、それは事実だった。私はうれしさと恥ずかしさでいっぱいでした。気が付けば、私はその場を後にしていた。すぐに後悔しました。そして、あの場所に戻りましたが、フリスト様の姿はそこにはすでにありませんでした。
彼はほかの男爵家のご兄弟と違い、私達平民にとても良くしてくださいます。ある時、国が飢饉に見舞われ、我々は税を治めることもできず、飢え死にするのではないかと困っていました。
徴税官は我々の事情を考えず、徴税できなければ、土地を差し押えると言ってきました。領主様であるフリスト様のお父君も、これといった対策もせず、我々から徴税するのみでした。
私達はいよいよ追い詰められ、この村から出ようと考えていた時、フリスト様が助けてくださいました。フリスト様は配下とともに近隣の商人たちと取引をして得た財や食料をすべて我が村に与えてくださったのです。
「フリスト様。本当にありがとうございます。我らはこの御恩を生涯わすれません。」
「いやいや。そんなに気にしなくていいよ 村長。それよりも、このことは内緒で頼む。俺が街で遊んでるのバレると怒られるから。それにこの金だって、ギャンブルで得たものだから気にしないで。」
私の父はとても感動していました。フリスト様はギャンブルとおっしゃっているけれど、私は知っています。本当は遊びと称して、各地を回り、商人から商いを学び、各地で取引していることを。
でも、彼はそれを決して、ひけらかそうとせず、自分の評価を上げようともしません。彼のご兄弟が王国近衛騎士に所属したことからも、彼は落ちこぼれ扱いされ、ご家族からも見下されていることを知っています。
けれど、私は思うのです。本当に領民のことを考えているのは、誰よりもフリスト様であることを。あの方は自らを侮らせ、きっと大きなことを考えているお方。そして、あの方が領主様になれば、きっと名君になられるでしょう。
だから私ごときではフリスト様にふさわしくはない。私はフリスト様に光栄なことに好意を持っていただいておりましたが、あの方にはもっとすばらしいお方がそばでお仕えするべきなのです。
そう思っていました。あの時までは。フリスト様は男爵様から追放されてしまいました。なぜ、あの方が。そう思いましたが、時すでに遅し。あの方は一人で旅立たれました。どれほど孤独でしょうか。なぜ、誰もあの方の英明さを理解できないのでしょうか?
せめて、私だけでも彼を支えたかった。私はとんでもないことをしてしまいました。彼の心を傷つけてしまった。フリスト様、私はあなたをお慕いしております。
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作者です。読んで頂きありがとうございます。新作『成り代わり戦記』を連載しています。良ければ、そちらもチェックしていただけると、うれしいです。
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