第2話 師匠ができました
あれからどのくらい時間がたったのか?ていうか、ここどこ?もはや現在地すらわからないんだが。
そんなことを考えながら山道を歩いていると、ふと女の声が聞こえた。
「すまない。足を止めてくれないか?」
どこから聞こえるんだろう。俺なんかに声をかけるもの好きな女なんているわけないってのに。ははは、おかしいなあ。寂しすぎて幻聴まで聞こえてきたよ。よほど、追放されたのがショックだったんだな。
まあ、でも、確かに俺は食って、自室に隠してある大人の本を読んでるだけのニートだったし、今年で23歳だし、親父が怒るのも無理ないか。
「おい!無視するな!お前に言っている!待って!止まって!お願いだからぁ」
ドサ
しげみのほうから物音がした。もしかして、本当に人がいるのか?
俺は気になって、それを見に行った。そこには、黒髪ロングの清楚系の美女が倒れていた。
「おい!君大丈夫か!」
彼女に駆け寄り、俺は揺り動かす。すると彼女がか細い声を発した。
「ごはん食べたい。3日も食べてない。食べ物をくれ。頼む。」
「わかった。だが、今はこれしか手持ちがない。悪いが、これで我慢してくれ。」
そして、俺はリュックに入っていた黒パンを彼女に手渡した。ちなみに、この黒パンは男爵領の主食であるが、実家は貧乏貴族なので、一般に普及している白パンとは違い、固く食べにくい。
しかし、彼女はそれをほおばり、のどを詰まらせたので、水筒を手渡し、水でパンを流し込んだ。
彼女が落ち着いたところで、そこら辺の岩に腰掛けた。
「救ってくれて、ありがとう。本当に助かった。君は命の恩人だ。」
「どういたしまして。ちなみに、なぜ、あなたのような美人がこんなところで倒れてたんです?」
「美人!」
そう言って彼女は顔を赤くしたかと思うとニタアとだらしなく口角を上げた。
「そうだな。君には命を救われたし、事情も離さないとだな。」
そうして、彼女の事情を聴くことになった。彼女の名前はヤスエ。なんでも、一流の傭兵として、裏の世界では名をとどろかせていたらしいが、ある任務で失敗してしまったという。
彼女の世界では任務失敗は死を意味する。命からがらに逃げた彼女は主のもとに戻っても、処刑されるのが、目に見えているため、行く当てもなく、放浪していたという。とうとう、貯金も底をつき、こうしてぶっ倒れているところに俺が遭遇したらしい。
「事情はわかりました。実は俺も行く当てがないんです。」
俺も今までの事の経緯を彼女に包み隠さず、話した。
「そうだったのか。君は貴族なのだな。今まで甘やかされて生きてきたのに、急に放り出されては今後不安だろう。そこでだ。私はこう見えて、強い。君を護衛しつつ武術も叩き込むから、君は私を雇うというのはどうだ?」
「雇うって言っても、俺は金ないよ。申し出自体はありがたけど、君にメリットないでしょ?」
「確かにその通りだ。だが、君は私の命の恩人だ。それに私はこう見えて、感も良くてな。なんとなく、君といれば、やっていけそうな気がするんだ。それに目先の金に私は興味はない。だから、無理に給金を出さなくても良い。ちなみに、私も行く当てがないのでな。これも何かの縁だ。よろしくたのむ。」
「そこまで、言ってもらえるんなら、俺も断る理由がないよ。よろしく師匠!」
「ヤスエでいい。君とは歳が近いのでな。名前で呼んでくれた方が、私はうれしい。」
「わかった。改めて、よろしくヤスエ。」
こうして、俺には師匠ができました。
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