第13話 魔王、話す


 あれからセイリンを部屋に戻し、しばらく自室で色々と考え事をしながら寝そべっていた。


 こんなにゆったりとベッドで寝るのはいつ振りだろうか。そう思うほどに緩やかに流れる時間に流されていた。


 たまにはこういう日があってもいいな、なんてことを思った。

 ふと、窓から外を見ると夕日が荒廃とした『死地』を茜色に染め上げながら沈んでいた。


 そろそろ晩御飯の時間か。


 俺は起き上がりながら、背伸びやら屈伸やらをして眠ったままの体を起こす。今日の夕食は何にしようか。


 魔族の土地の大半は『死地』。よって、農作物が育たない。だから、大半は家畜であったり、『死地』でも栽培が出来る数少ない強い種を育てるのだ。


 しかし、ここで一つ問題がある。というのも、しばらく食べる分には困らない程度の量はあるのだが、いかんせん種類が少ない。


「どうやってセイリンの口に合う料理を作ろうか」


 そう独り言を言ったのと同時に、不気味な違和感が身を襲う。


 だが、その違和感はすぐに正体をあらわした。


「口に合う料理、か」


 今までは最低限の工程で食事として食べられるものを適当に自分の為に作っていた。


 でも今では、どうやっておいしい料理に仕上げようか考えている辺り、やはり一緒に食べてくれる人が居るということは良いことだな、なんて思う。


 あの上りかけの朝日のような眩しい笑みを思い出し、ほんの少し口角が上がったような気がした。



―――――――――――



 コンコン。俺の隣の部屋であるセイリンの部屋をノックする。


 が、返事は無い。寝ているのだろうか。別に起こさず一人で食べても良いのだが、せっかく出来立てなのだ。暖かいうちに食べた方がおいしいだろう。


 何度かノックして、それでも返事がなかった為、扉を開ける。


 部屋の中には誰も居ない。と、思ったが、豪華な装飾が施されたベッドフレームの陰に隠れて、すやすやとセイリンは寝息を立てていた。


 まぁ、今日は色々とあったしな。


 本当に色々と……。


 とりあえず寝ているのを起こすのはどうかとも思ったが、せっかくここまで来たのだから起こすことにした。


 魔王城の中では基本土足だが、一応靴を脱いでカーペットの上に立つ。セイリンが寝ている傍までゆっくりと歩いて向かい、彼女の寝顔とご対面。


 長いまつげに、高い鼻。皺一つない艶やかな唇。それに、印象的な金髪縦ロールは無作為に白いベッドシーツの上に散らばり、まるで何かの模様のようだった。


 服は先ほどとは違い、白無垢の所々にレースが付いたネグリジェ。下がスカートになっているので、白く健康的な肉付きの太ももが隙間から覗かせていた。


 邪な視線を送っていることに気づいた俺は、どうにかしてそこから視線を引きはがし、セイリンの華奢な肩に手を乗せ、三回ほど揺らす。


 ほどよく熟した二つの果実が俺が体を揺らすに合わせて一緒にふわふわと動いていた。


 しばらくして、「むぅ……」と声を漏らしながら、セイリンが目を覚ます。


「すまない、夕食の時間だから……」

「ぼーさまぁ……じゃないですかぁー」


 薄く瞳を開いたセイリン。うっとりとした表情でしばらく俺を見つめた後、ぐっと手を伸ばした。


「ほら、夕ご飯の時間だか……」

「ぼるさまぁー。いっしょにねましょぉ?」

「えっ、あっ――」


 背伸びをするときに上げた手を、俺の肩に絡め、セイリンは俺を一瞬で引き寄せた。

 俺の頭はちょうどセイリンの胸の辺りに持っていかれ、先ほどのトラウマを思い出す。

 

 だが今回は掴まれた場所が良かったのか息苦しさは無い。


 しかし、なんとも言えない良い匂いと、意識がしっかりしている分、確かに感じる果実と肢体の柔らかさ。


 これはまずい。そう本能が叫んでいる、が。セイリンの怪力の前ではどうすることも出来ない。


「セイリン……? 起きてくれ? セイリン!?」

「……すぅ……すぅ……すぅ……」

「まじ、かぁ……」


 これが俗に言う嬉しい困りごとなのだろうか……。


 それから一時間ほど、理性を取り巻く欲望を必死に祓いながら、セイリンの抱き枕になっていた。



―――――――――――――――



「も、申し訳ありませんでしたわ……こんなお下品な真似を……それにこんな格好で……」


 ベッドの恥に座りながら、ネグリジェの胸元を抑えるセイリン。


 こんな感じのセリフ、何度目だろうなぁ……なんてことを考えながら、生き地獄だったあの状況が既に恋しく感じだしてきている自分にビンタをかました。


「大丈夫だ。そういう失敗は誰にだってある。……だから、次からは気を付けてくれ……」

「わかりましたわ……ところで、ボル様?」

「どうした?」

「二つほど聞きたいことがあるのですけれど……」

「何だ?」


 セイリンはいつもより妙に白い頬を紅潮させながら、目線を逸らして言った。


「私が付けていた下着を取ったりは……していませんよね?」

「何を言ってるんだ? 抱きつかれて、そこから一度も動けなかったんだぞ?」

「で、ですわよねぇ……おほほ……」


 どうして自分が身に着けていた下着を取られた心配なんてするんだろう? 俺がそんな付けている下着を泥棒するなんて事あるわけないの……下着が、無い……?


 と言う事は、あの時からつけてな…………。


 ぼぅっ、と顔が熱くなるのを確かに感じた。


 急ぎ、仮面を被る。


 こういう時に仮面はすごく便利だ。セイリンは多少……いやかなり恥ずかしさと訝しげさが混じった表情になっているが、仕方がないだろう。どれもこれも魔王としての威厳を守るためなのだ!


「ゴ、ゴホンッ。ところで二つ目はなんだ……?」

「あっ、そ、そうですね、二つ目……どうしてボル様は魔法で私の拘束から逃げなかったんですの……?」

「あぁ、それはな………………」


 ……………………………………あ。


 かんっぜんに忘れてたぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!!!! 


 そうだよ! 俺魔法使えるんだよ!?!?!?!?!?!?!


 どうしてだっ!? どうして思い浮かばなかったんだっ?!?


 それもこれもあの魔物おっπのせいだというのかっ…………!!!!


「ゴホン。それを語るには、まず魔法と言う物を知らなければならない。魔法というのは魂から生み出される魔力と言う物を魔術式という物に構築しなおして威力を倍増させたりその効果の多様性を生み出したりするんだそしてその魔術式を構築する目には多大な精神力と膨大な知識と魔法の才能が居るんだ。そして、それらを持ち合わせていても……………………要するにセイリン、君の近くでは魔法は使えなかったというわけだ。いいな? これは事実だぞ? 疑うことなかれ。すべてを受け入れるんだいいな?」

「な、なんだかよくわかりませんけれど、わかりましたわ……?」


 ぽかんと頭をこんがらがせているセイリンを尻目に俺は思った。


 これでヨシ!!!!!!!!!!!!!!!

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