第12話 国王、決起する


 私はフェイリエス王国第123代目の国王である、グレイシス・フェイリエスだ。


 この身をこの国と民の為に捧げてきたつもりだ。誰にも後ろ指をさされるようなことはしなかった。


 だが、あまりにも私一人がこの国を背負い過ぎた。


 国は前代よりも豊かになり、民も増えた。だが、仕事を振られなくなった家臣たちは腐敗し、堕落した。


 だからこそ、私がこの国から居なくなれば、いともたやすくこの国は崩壊してしまうだろう。


 私が何者かによって毒殺でもされてみよう。おそらくただの一週間も持たない。


 だからこそ、次代を育て上げるまでは、心を氷のように冷たくしてでも、生きねばならなかった。


 しかし、そんな時に、次代の最有力候補である私の愛娘、セイリンが魔王によって攫われてしまった。


 その報告を聞いたとき、私は真っ先に悔いた。質の良い教育と、住処と食事さえ与えていれば、歯向かう事は無いだろうと思っていた浅はかな自分の考えにではない。


 どうしてもっと愛情を注いでやれなかったのだろうか。


 無くなってから気づく事もある、とよく言うが、一番体験したくない場面で私は体験してしまったのだ。


 心の器は後悔で溢れかえり、零れ落ちそうなところで、私は三日三晩公務をし続けようと思った。


 そうすれば、苦しいことも一時は忘れられる。


 セイリン愛娘はもうきっと、帰ってはこないのだから。


 

 と、思っていた時期が私にもあった。


 三日三晩仕事を続けるよりも前に、セイリンは帰ってきたのだ。


 私が、腐り切った無能どもと形限りの王女奪還作戦を立てている謁見の間に、ポツンと、突然に。


 言うならば、日帰り魔王旅行と言ったところだろうか。それほどまでに早い帰宅だった。


 その場に会した私たち一同は、驚愕し、魔王によって送られた刺客ではないのかと散々に疑ったが、確かにセイリンだったのだ。


 その時は、素直に嬉しいという気持ちと、どうにも言えぬ違和感が胸の奥に少しだけ残っていた。


 それは、からくりの奥の奥にある取れない錆のような、そんな違和感。


 だが、帰ってきたことに変わりはない。だから、新しい部屋を分け与え、時間が経ったら色々と話を聞こうと思った。


 が、しかし。セイリンは何故かひたすらに自室にこもっていた。


 時折、外に出ることはあっても、騎士団の訓練を少し見てから再び自室に戻るという事の繰り返しだった。


 魔王城で何があったのかわからない。


 だが、何かがあったのは確かだ。だからこそ、自分で話してくれるその時まで、私は待つことに決めた。


 だが、それはかなわぬ願いとなった。


 再びセイリンが消えた。戻ってきて一か月も経たないというのに。きっと、間違いなく魔王の仕業だろう。


 どういうつもりなのだ。一度返して、再び攫う。


 私を試しているというのか。


 ぐつぐつと腸が煮えく返る音がずっと聞こえていた。


 だから、その瞬間私は、全力で魔王を潰しに行くことを決めた。


「勇者を……今代の勇者を探すのだっ!!!!」


 慈悲は無い。ただ私のセイリン愛娘を奪った魔王を必ず殺す。その為にどんな手だって尽くそう。


 私は莫大な報奨金を掛け、ある人物を探し出すことに決めた。


 魔王を殺せる唯一の存在である、勇者を。

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