第9話 魔王、驚く
魔王城の大広間。大魔石をふんだんに使った床に、壮大な彫刻が施された壁。
大小様々な、数百程度の魔族が入ってもすこし余裕があるほどには広い。
その大広間の一角。階段の先にある玉座にどっしりと腰を構え、仮面を被り、黒マントに身を包んだ男。
それが俺、魔王ボルグロス・イェレゼンザートだ。
そして、大広間には、大小さまざまな大きさの魔族が所狭しと割拠していた。
これらは俺が集めた小隊長クラスよりも上の物を呼んだ結果だ。
人間側の偵察をしていた
この2人と今は居ない2人を合わせて、魔王軍の四天王だ。
残りの2人の内の1人は、俺の前の代からの生き残りで、俺の実力は認めてくれてはいるが、俺と言う新体制がどうにも気に食わないらしい。
もう1人は……自由人だから俺も今どこにいるかすら掴めない。
大体の人数が揃ったところで、俺が一つ咳ばらいをする。
ざわついていた空気が一瞬で静まった。最近忘れかけていたが、これでも一応魔王なのだ。
ただ玉座に座って偉そうにしているだけではない。実力を見せつけ、魔族全員が俺に着いていくという選択を取ったからこそ俺は魔王としてここに君臨している。
「皆の者、良く集まった。なぜここに呼ばれたのか、おおよそ予想は出来ていると思う。単刀直入に言おう。朝に現れた侵入者の件だ」
大広間が再びざわつき始める。きっと門を護衛していなかった部隊も噂くらいは耳に入っていたことだろう。
「だが、この私、魔王ボルグロス・イェレゼンザートが、この手で直に力の差をわからせてやった。だから心配する必要はない」
おぉっ、と感嘆が随所から漏れる。
全員、俺の力に着いてきてい流のだから、まさか俺が負けるなんて考えていないのだろう。というか、そう盲信していてもらわなければ困る。
そう考えるとなんだかすごく申し訳ない気持ちになった。
「配置の変更などは特にない。だが、二度は無いぞ。これからはもっと人間との戦いが激化するだろう。その覚悟と魔族としての矜持を持って、これまで以上に仕事に励め。以上だ。今後もよろしく頼む」
「「「「「「「ははっ」」」」」」」
地鳴りをも起こせてしまいそうな返事が魔王城を揺らす。少し間を置いて、俺は口を開いた。
「なにかしら質問があるものは居るか?」
俺がそう聞くと、スッと前列の物が手を挙げた。それは四天王の1人、ハーピィのキュリーだ。
「魔王様。僭越ながら、ご質問をさせていただきます」
「どうしたキュリーよ」
「その横におられるものは誰でございましょうか?」
「…………」
俺の横には、俺と同じような真っ黒なマントに身を包み、黒を基調にしてところどころ赤いラインが入った仮面を被ったものが立っている。セイリンだ。
ここに来ると言って聞かないセイリンへの妥協案として、仕方なく身体的特徴が一切出ないマントとマスクを被ってもらった。
もちろん、『こちら、朝の侵入者さんだ』なんて言うわけがない。
そんなことを言って不信感が募り、革命でも起こされた時にはたまったものじゃない。
「こやつは……新しくできた側近だ。名前は……名前……イレンだ」
セイレン自身にも新しく俺の側近になったという設定を熟知してもらった。だから、変な行動は起こさない、はず……。
「そうでございましたか。そうとも知らず、愚問をしてしまい申し訳ありません。それと、一つお聞きしたいことがあります」
「何だ」
「その側近……イレン、という奴、側近になる実力を兼ね備えているのですか?」
来た。予想していた質問ではあるが、さすがに俺が側近に選んだものならば文句なしに行くかと思ったがそうも上手くいくわけがないか。
魔族とは、今では
だからこそ、魔王が率いる『魔族』と言う軍隊の中での序列は、実力至上主義。力を持つ『個』が正義なのだ。
それにしても、前々から側近になりたいとキュリーは俺に言ってきていたな。
せっかくハーピィの中でも身体能力が特別に高い個体なのだから、その身体能力と羽根を存分に使える
そういえばレイシーもキュリーほどではないが、側近になりたいと言ってきていたな。
レイシーは単純にいつも衣装がえちえちすぎるから断った。
しかし、どうしたものか。ここで戦わせてイリンの正体がセイリンとばれるのも面倒だ。ここは一芝居打つことにするか。
「キュリー。この俺の選んだ側――」
「いいですわ……」
「え?」
「そこまで言うのなら戦って実力を見せてあげますわーっ!!!!」
ここで
「ほう、そこまで言うのなら戦うことにためらいはないようだな? この私をあまり舐めない方がいい」
うん、キュリー? そいつ、
俺の心配が口から溢れるより先に、2人はピッタリと息を合わせて言い放った。
「「魔王様!!!!」」
「あっ、ん?」
「わたくしとっ!!!!」
「キュリーをっ!!!!」
「「戦わせてくださいませっっっっ!!!!」」
「…………」
どうしてこうなちゃうんだろうなぁー。
不思議と落ち着いたままの心を撫でながら、
「わかった。よくわかった。ならば場所は俺が準備しよう」
俺は虚しくなりつつある心を落ち着かせるため、天井を見上げたのだった。
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