第11話
「ごめんなさい、お付き合いはできません」
月曜日の放課後、私は部活に向かう前の三伏君を呼び止めて、人気のない踊り場に移動してそう口火を切った。
「……そっか。やっぱその、幼馴染さんがいるからなの?」
「うん」
「そっか……」
三伏君の声のトーンが少し落ちる。
酷く落胆した様子だ。顔も若干俯いている気がする。告白を断られたんだからそうなるのは当然だろうと思う反面、そういう反応させてしまいごめんなさいという考えも過る。
傲慢が過ぎるけれど、やはり自分はそういうのは苦手なんだな、と思う。同時に三伏君の行動に移した意思に内心敬意を抱いた。
「その、なんつーかありがとうな」
「え?」
だからまさか感謝されるとは思わず、私は変な声を漏らす。
「いや、よく思い返せば俺も変なこと口走ってたしさ、結構一方的な部分があったから返事がないかもーって考えたんだよ」
「そ、そんなことないよ! 三伏君がそれだけ真摯に思ってる気持ちは伝わったし、そう言えるのは凄いと思う……から、そう卑下しないでいいと私は思う、よ」
言葉の途中で我に返ってしまい、語尾が小さくなってしまう。だけどそれは本心だ。
三伏君は一瞬大きく目を見開き、それから「ありがとう」と照れくさそうに頬を掻きながら言った。
「……そ、そう言えばその幼馴染とは付き合ってるのか?」
「ううん。私の片想い」
「そっか……っと、そろそろ部活行かないと顧問に怒られる」
「ゴメン。時間とっちゃって」
「いいよ。何度も言うようだけど、きちんと返事してくれて嬉しかったからさ――それじゃあ、また」
「うん。部活頑張って」
「おう!」
三伏君は一段飛ばし――そして下五段くらいは飛び跳ねて下りていき、あっという間に見えなくなった。
それから暫くして、人気がまるっきりなくなった廊下で、私は大きく息を吐いた。
緊張した。人生を振り返って一二を争えるくらいの緊張した。その緊張で体が強ばっていたのか、バランスを崩しかけるくらいだ。
「はぁ……」
緊張とは別の理由で心臓が痛い。良心が痛む、という表現が適当だろうか。
そんなに辛くなるのなら、返事しなければいいのに――と悪魔のような言葉が思考を過る。今更な言葉だけれど、そうすればよかったかもしれない、とそう出来ただろう正当な理由を考え出す頭に嫌気がさす。
思考を切り替えようにも、どうも脳内で先程の会話を反芻してしまい、何度も溜息が漏れる。
「……帰ろ」
どうにか思考の渦から脱却して教室に向かう。荷物は置きっぱなしだったので若干玄関までの距離が遠くなるけれど、それは仕方ないことと歩きながら考えた。
教室には誰もおらず、沈みかかった夕焼けが照らすだけで伽藍としていた。荷物も私のものしかないので、もう皆部活に行ったり帰ったりしたのだろう。
机の上の荷物の取っ手に手を掛けたところで溜息を吐く。精神的に疲れたのだろうとは想像に難くない。
久しぶりにご褒美として甘い物でも買って帰ろうかな。
そういえば、アキ君が入院して以降、買い食いなんてしてないなぁ……。
「……お見舞い、行こ」
決定の意思を示すように言葉にして、私は鞄を左肩にかけて教室を出た。
手土産に何か買って行った方がいいかな? 病院食は味が薄いって聞くし、何か甘い物でもいいかな?
歩きながら、お財布の中身と相談して買いたいお菓子を考える。勿論、私とアキ君の二人分。いつもなら二人で相談して決めていたことなので、一人で決めるのは新鮮さを感じると共に、一人なのが少しだけ寂しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます