第4話
好きとはなんだろう――それを考えるだけで時間は瞬く間に過ぎて、いつの間にか朝陽が登っていた。
元気はない。というか頭はクラクラするし、体は重たいしで絶不調この上ない。
「おはようお母さん」
「おはよう雪葫――って、どうしたの!? 顔赤いよ!?」
手すりを握りしめ、どうにかふらつく体で一階に下りれば、お母さんが声を荒げて私の頭に手を当てた。冷たくて心地良い。
「熱かなぁ……とりあえず体温測って」
「んー」
私は促されるがままにソファーに座り、体温計を脇に挟む。背もたれに全体重を預けて暫くぼうっとしていると体温計がピピッと音を鳴らす。
お母さんは素早く私の脇から体温計を取って、険しい顔をした。
「38.1……風邪かなぁ? 取り敢えず今日はお休みした方がいいね。食欲はある?」
お母さんの言葉に咄嗟に頷くと、「よろしい」と満足げに言って台所に向かった。
頷いてみたとはいえ別にお腹が空いた感じはない。ただ体が重たいだけだから風邪じゃないと思うけど……。
「風邪だって高を括って一週間学校を休んでた子がいるからなぁ」
「!?」
朝食を食べていたお父さんが私の思考を読んだかのようにそう言うと、ちょうど居間に入って来たお母さんが動きを止めた。
何となくだけど、お母さんのことかなとわかった。お父さんは笑いながら食器を片付け始める。
「冬君、あんまり雪葫に変なこと吹き込まないでよね」
「はいはい」
「あと、片付けは私の仕事!」
お母さんはそう言ってお父さんの持った食器を無理やり受け取り、台所へ戻っていく。
「あ、いや俺にもやらせてくれ……はぁ」
お父さんは名残惜し気に溜息をついて、代わりに机に置かれたスポーツドリンクを私のもとに持ってきた。
私は受け取ったスポーツドリンクの蓋を開けながらお父さんに聞く。
「さっきの話って……お母さんのこと?」
「そうだぞ。まあその話は雪葫が元気になったら話そう」
「元気になっても話しませんし、話させませんー。
ところで冬君、時間は大丈夫なの?」
「え? あ、やばっ」
時計を見たお父さんが慌てて、鞄とスーツを着始める。
時刻は七時を少し過ぎたところだった。いつもなら七時前に家を出ているので、相当急ぐことになるのだろう。
「全く。家事は全部私に任せていいのに」
「そうは言っても全部一人でやるのは大変だし、
お父さんはそう言って、走って家を出る。
聞こえたかどうかわからないけど「行ってらっしゃい」と一緒に言うと、お母さんは部屋で寝るかここで寝るか聞いて来た。
「……部屋で寝ようかな」
「わかった。学校には連絡しておくから、絶対安静にするように。わかった?」
「うん」
私はお母さんの念押しに頷いて、階段を登っていく。
その間心に広がったのは、強い安堵だった。
――私って、最低だな。
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