第1話
週明けの学校では早くもアキ君の事故の話が広まっていた。仲の良いクラスメイトや担任の先生からは何も言われなかったけれど、クラス全体に気を使われているような、同情的とも言える視線の中は非常に居心地悪く、何度早退しようと思ったかわからない。授業内容だって殆ど頭に入ってきてなかった。それはクラスメイト云々関係なかっただろうけれど。
「アキ君!」
アキ君の事故から5日経った水曜日の放課後、母から連絡を受けた私は、アキ君の入院している病院に来ていた。
受付を済ませた私は何かの衝動を駆られているかのように廊下を走ってアキ君が入院しているという病室の扉を勢いよく開けて名前を叫んだ。なぜそこまでしたかわからないけれど、強いて言うなら気がついたら走っていて、気がついたら叫んでいたが適当だと思う。後から恥ずかしさが込み上げてきたし看護士の方から少しお説教を受けたけれど、この行動を後悔することは今後も訪れないだろうと確信している。
病室にはアキ君のみが入っており、当のアキ君は蛍光灯が眩しいだろうに天井を見上げていた。目線だけをこちらに向けて、私を認識すると少しだけ口角をつり上げた。
お爺さんを思わせる雰囲気のまま、のっそりとした動きで枕元のスマホを取ると、アキ君は何かを打ち始めた。
不思議に思いながら隣で待つこと暫し。手を止めたアキ君は、スマホを開いた状態のまま渡してきた。
開かれているのはメモ帳やそれに類するアプリだろうか。そこにはこう書かれていた。
『よ、五日ぶり。こんな状態でゴメン。
単刀直入で申し訳ないけど今俺は声が出ないんだ。あと足骨折してて動けないから起き上がれない。どっちも生活する上で問題ないくらいまで回復する見込みはあるらしいけど今はどっちも無理らしい』
「……え」
──脳が理解を拒んだ。
しかしアキ君は私が読み終わったと見てかスマホを回収すると、また何かを打ち始めた。
私はそれを呆然と眺めることしか出来ない。その胸中は文字通り混乱を極めていた。先の文は異常な程に焼き付いているのに、しかしそれを受け入れられない。
『幸い二ヶ月から三ヶ月くらいで前のように生活できるらしいけどな』
「そ、そうなんだ……よかったね」
『おう。お見舞いサンキューな。
勝負、俺の負けだな』
少し行を空けて書かれていた文を認識したとき、私は足場が崩れるような錯覚を感じた。
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