Chapter.6 服選び

 セシリアの顔立ちは美人だ。また同時に、異世界独特の顔つきをしており、目鼻立ちがくっきりしすぎると言うこともない。名前がセシリアだからややこしいが、適当にハーフやクォーターとか言えば日本語ペラペラでも納得出来る顔つきではある。

 つまりそれだけでも彼女は目立つわけで。


「……やっぱそれ下ろさないか?」


 すれ違う人全員にセシリアが見られる。だって、ぬいぐるみを抱き抱える美少女がきょろきょろと店内を見渡しているわけだ。嫌でも目立つ。

 めちゃくちゃ見られる。


「ダメですか? 目が合う方々が、私を見ても微笑みかけてくれるので馴染めている気がして嬉しいのですが」


 俺からすると浮きまくりなんだが。確かに、奇異の目というよりは微笑ましいものを見るようにセシリアを見る人のほうが多い。本人がそれでいいなら別にいいんだが、隣に立つ俺は少し居た堪れない。


「店入る時はしまうからな」

「分かりました」


 すごく不服そうに頷くじゃん……。


 ♢


 そんなわけで当初の目的である、洋服を買うため、アパレルショップをめぐる。

 二階のお店は最後に回りたいので、まずは一階。セシリアを連れ回す形で、どんな洋服なら彼女が好むか。そこから探すことにした。

 突然レディース専門店のほうに入るのは気が引け、俺も何度か入ったことのある、メンズ服も取り扱うショップから回る。店内に入るとセシリアはぎこちない態度を見せていた。


 見かねて、適当に洋服を取り、「こういうのなら似合うんじゃないか?」と言ってセシリアに合わせようとする。と、ぉぉお、と謎に感嘆した様子でセシリアが俺のことを見つめる。なんだよ。


「こ、ここにあるもの全部高そうなんですけど……」

「値段はまあこんなもんじゃないか?」

「すごいですね、この世界……」


 こんなもんじゃないかとは言ったが、何気なく取ったアウターが三千円もする。こわ。

 そっと元の場所に戻しつつ。


 どうやらセシリアは、店内の雰囲気に気後れしているようだった。

 内装はおしゃれで心地いい店内BGMがあり、展示される服は華やかに。ずらりと整列する洋服の数々も、異世界人から見たら信じられない光景なのだろうと思う。


 落ち着いた客層に、店員さんもキラキラとしたおしゃれな人ばかりで、自然とセシリアも声のボリュームを落として存在感を薄めようとしているように思えた。


 ゲームセンターもそうだが、セシリアはある程度騒がしい場所のほうが好きみたいだ。


「これって触っていいのですか?」

「うん……別にいいだろ。この店は試着出来ないけど、試着室がある場所なら着ることも出来るし」


 おっかなびっくりと洋服に触れるセシリア。どうやら肌触りが良かったみたいで、すごい嬉しそうな笑顔で俺を呼び掛けてくる。


「これすごいですよ! すべすべ!」


 ……元の調子に戻るのが早すぎる。そりゃそうか。誉れある栄典であんなにフフン顔してた女騎士だもんな、こいつ。


 セシリアの環境適応能力の高さに苦笑する。

 アウェイの概念がないのかもしれない。


 それからも、洋服探しは続いた。

 現在、この世界では七月の上旬に当たる。梅雨明けまでもうしばらくあるが、シーズンは完全に移り変わり、夏ものが数多く取り揃えられる印象。一部セール対象品として春ものの在庫も置かれており、メンズ服も気になるものが多かった。


「なんか、どれもいいと思います」


 ひとしきり見たところでそう言われ、まぁ服選びは難しいよなと共感するなど。

 俺もファッションセンスがあるほうではないので、あまり助言が出来なくて申し訳なく思う。


「まあ他にもあるから、見るだけ見てくか」

「分かりました」


 セシリアが俺の手元を見る。


「ではガブリガーを返してください」

「意地でも持っていたいのな……」


 今後様々な場所に連れ回すなら、お気に入りの外出着でも一枚くらい出来ればと思ったんだが、無理して買うものでもないか。


 生活に必要な普段着のほうはユ○クロで買い揃えようと思っていたので、直行してもいいかもしれない――と、考えているところ、俺に話しかけてくる人物がいた。


「あれ? タクヤくん?」


 1/f揺らぎの美声に声を掛けられて振り返る。

 その正体は振り返る前から分かる。

 水瀬ミナセユカリ。高校・大学と五年近い付き合いがあり、俺の……、友人に当たる人物だ。

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