Chapter.5 ゲームセンター
マークイズ静岡はJR東静岡駅北口方面から徒歩五分ほどの距離にある商業施設で、『街とともに成長し、人々に長く愛され続けるランドマーク』という謳い文句がある。
実際、新幹線が停まり他方からの人の流れが盛んな静岡駅周辺の盛況さを知っていると、その一駅向こうで地域住民を歓迎するようなこの商業施設は謳い文句に違わない人気がある。
あと、静岡駅周辺は確実にいま妹がうろついていそうだ。県内でもそれなりの遠出、お小遣いも上げたばかりだし、この休日をエンジョイしていてもおかしくない。ので、ミーハーは目的地にしにくいこちらを狙ったという理由もあった。
だんだん感覚が麻痺してきたのか、目が点になりつつあるセシリアを連れて店内に入る。
ここの特徴はなんといっても、豊富なアパレルショップの数々といえよう。
『H*M』から始まり『Z*RA』、『R*ght-on』、『A*C MART』……一階店舗の約半分ほどの面積が洋服を取り扱う専門店で、二階には我らが『U*IQLO』もある。別にアパレルだけってわけじゃないのだが、やはりこの目白押し感は凄まじい。
店のなかを歩いているだけでも店員の呼び込みがあちらこちらから聞こえ、セールの広告や通路での展示も行われる。男の俺にとっては必要な時以外関心を持たない空間なのも確かだが、やっぱり、服を買いにくる、となると思い付くのはここだった。
立体駐車場のほうに車を停めたので、三階から降りていくことにする。
エスカレーターにビビるセシリアがちょっと可愛く見えておかしい。
旅の頃は絶対に見れなかった姿だ。
「なんですかあれ!」
「ゲームセンター? 遊び場だよ、誰でも入れる」
そわそわとするセシリアに苦笑する。
「行くか」
「ぜひ行きましょう!」
三階。フードコートと隣接するエリアにゲームセンターは存在する。主にクレーンキャッチャーが多く、親子連れが遊びやすいような空間だ。
流行りのアニメのフィギュアからぬいぐるみ、キーホルダーなどが潤沢に取り揃えられ、お菓子やグッズなどを景品にしたプッシャーゲーム台などが目を惹く。
はじめは困惑していたが、他のお客さんが実際にプレイする様子を見てだんだんとここにあるものがどういうものかは理解したらしい。「景品を取る遊びだ」と補足させてもらうと、次第にセシリアは台じゃなく景品のほうを意識するようになっていった。
「気になるものがあるなら遊んでみてもいいよ」
「本当ですか?」
「うん」
正直、セシリアは苦手だろうなと思いつつ。
ぐるりとゲーセン内をめぐる。そうすると、セシリアが関心を示したのは、クレーンゲームのなかでもかなり根気のいる、ぶら下がりタイプの台であった。
景品は有名なアニメのマスコットキャラのビッグぬいぐるみだ。俺も名前は知っているが、実際に視聴したことはない。
単純にデザインが惹かれたのか、ぬいぐるみがぶら下がっている光景が視覚的にゲーム性を感じやすかったのか。
なんにせよ興味があるのは良いことである。
取れるか取れないかは置いといて、簡単なプレイ方法を指南し、百円を投入する。
「おお……」
ゲームが始まるとBGMが変わる。
セシリアの気分も盛り上がる。
台の設定は、一本の突き出たポールに対してDリングで吊るされたぬいぐるみを落とすというものだった。
コツとしては、Dリングの角を刺激するように前後を交互に押し出す形で狙う。
お前いま覗き込もうとして頭ぶつけたな。
「ちょっ……ガラスが邪魔です」
いま笑いました? と振り返るセシリアに目を逸らしつつ。
アームはスカッと空を切った。
「これ難しくないですか?」
「ちょっと任せてみろ」
うなだれるセシリアに触発され、良いところを見せたくなり出しゃばる。
俺も別に上手いわけじゃないんだけど。
「おお! 動きましたよ! さすがです!」
……なんかちょっとヨイショみたいで嫌だな。いや、セシリアからすればそうなんだろうが。
クレーンゲームの難易度を知っているので、こう褒められると気恥ずかしさが勝る。
「……取れないことはなさそうだから狙うか」
「本当ですか? 私ぜんぜん出来る気しないんですけど……」
「こういうのは繰り返して感覚を掴むんだよ」
五百円を投入して六回プレイ。二千円までは許容範囲とする。
その後、セシリアにも何度かやらせ、ポールにアームがぶつかったり、かと思えばミラクルプレイでぐいっと大きく動かしたり。
セシリアのオーバーリアクションも相まって、かなり盛り上がる時間を過ごせた。
もちろん、そのフィニッシュは、
「やったー! やりましたよタクヤ殿!!」
「さすが! よく最後決めてくれた!」
「この子の名前はガブリガーにします!」
「んんっ……」
……………正しい名前が別にあるとか、その絶妙に可愛くはないネーミングセンスは何なんだとか。
言いたいことは山ほどあったが、俺はぐっと呑み込むことにした……。
なお。
「絶対に手放しません」
「持ち歩くと目立って仕方ないんだが……」
自分で手に入れた喜びもあってか、ぜんぜん袋にしまってくれないセシリア。
以降、気が済んでくれるまで、ぬいぐるみを抱き抱える彼女を連れて店内を歩くことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます