鳴かないことに価値がある【第八回「鳥」】

「鳴かないのね、この子」

 質屋の黒猫は、質入れ品が並ぶ棚を見上げながら呟く。彼女と目が合っているのは、ガラスケースの中にいる小鳥だ。じっと猫を見ている。

「鳴かないことが売りだからね」

 店主はぱたぱたとはたきでガラスケースの埃を払いながら言う。このケースは中の温度や湿度だけでなく、時間まで固定できる優れものだ。生物は時間の経過は感じるが、空腹も何も感じない。

「昔、鳴かせようと躍起になった人たちがいたとか、いないとか」

「へぇ。有名なら、それだけ価値があるってことか」

 ここは、物に込められた思いに価値をつける質屋。この小鳥が持ち主にもたらしたのは、一生遊んで暮らせる額であったのかもしれない。

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