千里の道を知る者【第四回「靴」】

 ぼろ切れのような服を着た少女は、涙ながらに訴えました。

 私が持っている物の中で、一番高価な靴です。たくさん履いてでかけたから、くたびれてしまっているけれど、しっかりと手入れをしているからまだ履くことができます。けれど、私にはもうこの靴を履いていく場所がありません。大事にしてきたものだから、捨てることはできなかったのです。お別れするのは寂しいけれど、家のためにはお金が必要なのです。だから、どうか、お願いします。

 ぽたぽたと少女の目から涙が零れ、靴先を濡らします。質屋の店主は、靴を検分しながらにこにこと笑います。

 喜んでお預かりしましょう。ここは、思い出に値をつける場所。こんなお宝、放っておきませんよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る