迷子の行き先【第三回「おくる」】

「もう結構ですよ」

 男の声に、運び屋は背もたれにしていたバイクから離れる。歩み寄る運び屋に、男は果実を差し出す。錠剤程の赤いそれを、運び屋は礼と共に受け取って、ごくりと飲み込む。

「無事に逝けたようです」

「それはよかった」

 二人が見上げる先には、星一つない空に昇っていく小さな光の列がある。まるで、星の川のようだ。

「もう迷子になるなよ」

「あはは、気をつけます」

 男は笑いながら立ち上がり、ぐっと伸びをする。そして何度かその場で小さく跳んだ。

「では、ありがとうございました」

 跳びながら男の身体は光に変わり、言葉を最後にさらさらと空に消えていく。無事に川に合流できたことを願いながら、運び屋はバイクに跨った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る