第2話 全裸追放

 服、衣類、お召し物。言い方は何でもいいが、ソレは生活の三大要素“衣食住”に数えられる代物だ。

 

 この世界、ルヴァーラにおいて、服は倫理観で着られていた。というのも、魔王軍との戦いに明け暮れているこの世界では、法が機能していないからだ。

 よって、この世界では


「服着ないとか……はっず」

「いや、普通に着るもんでしょ」

「え、なに? 変態なの? 露出狂?」


 という考えのもと、みんなが服を着ていた。

 だが、ラスタークは違った。


「全裸……全裸の何が悪いってんだよ!」


 と勇者にブチギレているのだ。

 勇者は顔を赤らめながら


「悪いだろぉ! いろいろとぉ!!!」


 至極まっとうな言い分だった。そりゃあ服は着てもらいたいだろう。


「勇者よ、お前は服を着なさいと習ったか!? そう、習っていないだろ!!!」

「習うよ! 習ってなくてもどっちみち理解するよ!」


 ????? 本当に習った記憶がない。


「な、習うのか!? 俺は習わなかった……」

「んあああああ!!!! そんな事はいい! まだ間に合うから服を着てくれ!」


 ここで服を着れば、まだ勇者パーティーに居れる。まだ地位も名誉も誇りも保てる……なら考える余地はないようだ。


「——だが断る」


 誇りなんて糞くらえ。そんなものはそこ等にいるトランクス派に食わせておけ。俺は服を着ない。


「バカ! マジでバカ!」


 目の前で勇者がわめいている。

 どうにかして俺を引き留めようとしている事から、俺の戦力を評価していることが伝わってくる。少しは嬉しいもんだ。


「馬鹿でも構わん。それが————俺の歩む道だ」


 ……決まった。あまりにかっこよすぎる。


「それっぽく言ってるだけで、全裸なだけだぞ!」


 勇者はあきらめたように、がっくりと肩を落とした。


「もう良いよ……代わりの拳闘士モンク探すから。——でも、服を着るつもりになったらまたパーティーに戻ってこい」


 勇者にここまで言わせた男がいただろうか。いや、俺だけだろう。


「あぁ。また全裸を受け入れる覚悟ができたら、また声をかけてくれ」


 勇者は中指を立てながら酒場を出ていった。哀れだ……。

 そんな勇者を見送り、今後のことを考える。


「さて、とりあえず聖都にでも戻っかな」


 聖都とはルヴァーラの中心にある、人類最大の生活圏だ。簡単に言うと首都みたいなものだ。


 聖都に戻って、冒険者でもやろう。金が無いとどうしようもないからな。

 ——金……?


「マスター、俺のツケっていくらだ?」

「本日分含めて、ざっと5万ルタですね」


 5万か……払えるが、これからを考えると重いな……よし。


「じゃあそれを勇者にツケといてくれ。ちょっくら急用で聖都に行かなきゃならんくてな」

「よろしいのですか?」

「あぁ。頼んだ」


 勇者パーティーの退職金として許してくれるだろう。

 ありがとう勇者、ありがとう僧侶、ありがとう賢者、ありがとう騎士、ありがとう盗賊シーフ……この5万はきっと忘れないからな。


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