俺を追放した勇者パーティー ~服を着ろと言われてももう遅い~

猫飯 みけ

第1話 勇者パーティーの拳闘士

 ここはアルガンテ。魔王の住む都“リベデラル”の目と鼻の先にある軍事都市だ。都市を囲むようにできた城壁からはどことなく圧迫感が漂っている。


 そのせいだろう。ここら辺の連中も、壁に似て真面目な奴ばっかりで非常につまらない。


 そんな街で魔王軍に対抗しているのは、人間や亜人で編成された連合軍と冒険者たち。両者のにらみ合いが始まってから三年は経っただろうか。緊張感は少し薄れてきて、唯一ある酒場にも人が増えてきている。


 要するにだ。俺にとってはここで呑む酒が最大の楽しみってことだ。



「おやっさん、いつものね。なみなみ注いでくれよ?」

「ラスタークさん……あんま言いたくないけどよ、こんな毎日うちに来て平気なのかい?」



 店員から酒を受け取った。最近ハマったのがこのブドウの酒だ。


 世間ではチビチビ飲んでるみたいだが、こいつを一気に流し込むってのが乙なもんだ。



「俺は戦闘専門だからな。戦争が始まんねぇ限りは暇なんだよ」

「そうかも知んねぇけどよ……いや、客として来てくれんのは構わないんだ。ただなぁ……その恰好ってのがなぁ」



 魔王との決戦に備え、勇者パーティーの奴らは小難しいことを考えている。だが、知恵を絞るなんて俺みたいな拳闘士モンクには向いていない。


 頭脳労働は賢者とかにやらせておくのが良い。何せ、俺にはよく分からないからな。魔王って言っても適当に殴ってれば倒せるだろ。


 だから今もこうして、カウンターで強い酒を流し込んでいる。



「ラスターク、ちょっといいか」



 名前を呼ばれて振り返ると、そこには見知った顔があった。中性的な顔立ちに、眩い金髪と綺麗な碧眼。



「誰かと思えば勇者じゃねぇか。酒場に来るなんて珍しいな。どうだ? お前も一杯」

「――――いや、私は遠慮しておこう」



 そう言って勇者は俺の隣に座る。


 俺は呑んだくれだが、こいつ率いる勇者パーティーの拳闘士モンクだ。チーム内の攻撃力は勇者に続き二位。火力に自信はあるが、魔法は全く持って使えない。


 拳闘士モンクだから、魔法が使えないのではない。魔法が使えないから、拳闘士モンクをやっている。



「で、最強の冒険者こと勇者様がこの俺に何の用だ? やっと戦争でもおっぱじめんのか?」

「いや……そうではないのだが……」



 勇者は横目で俺を見ると、怪訝そうな顔をする。美男美女揃いの勇者パーティーの中で、普通の顔面偏差値の俺は……まぁ、醜くもあるだろう。


 それにしたってその表情はないだろうが。無骨な俺でも少しは傷つく。


 イケメン主人公さんは、見ている世界が違うんだろうな……。



「ならなんだよ。まだ借りた金は返せんぞ? 魔王討伐の報奨金で返すつもりだからな」

「その用事でもないさ。借金返済も私は半ば諦めているしな」



 俺はグラスに入った酒をあおる。それとは対照的に、勇者は無言で水の入った酒樽を眺めていた。

 

 ……勇者の奴。一向に話を切り出そうとしないな。ったく、人生の先輩たる俺が気を利かせて、過去の武勇伝でも聞かせてやろうか?


 そう思っていたところ、勇者はやっと口を開いた。



「なぁラスターク」

「なんだ。恋愛相談なら他をあたってくれよ?」

「……お前、もうパーティーから抜けろ」

「――――は?」



 尽きない疑問が俺の脳を侵食していく。なぜだ!? これから魔王に挑もうって時に、わざわざ俺を抜けさせようとする? 



「おいおい、それはどういう事だよ……!? 」

「お願いだ……抜けてくれないか……この通りだ……」



 勇者は汚い床におでこを付け、その場で綺麗な土下座をした。


 酒場の視線が全部俺たちの方に向いた。人類の希望といわれるイケメンが、さえないおっさんに土下座をしているのだ。目立つのは当たり前だ。


 正直な話、俺にも心当たりがないわけじゃない。



「やっぱり俺が魔法を使えないからか!?」



 魔王がすさまじい防御力を誇っていて、魔法しか効果がないかもしれない。それなら——分かる。



「違う」



 違ったようだ……。

 そうかそうか。拳だと応用が利きづらいし、リーチもない。せめて武器が使える必要があるんだろう。



「俺が剣を扱えないからか!」

「違う」



 違ったようだ……。

 ……まさかとは思うが。



「ははっ……そうか。俺の顔が醜いか……!」

「――それも違う。顔は問題じゃない」



 分からない。俺が勇者パーティーから抜けなければ行けない意味が!



「じゃあなんなんだよ! 何が不満なんだ!」



 叫ぶ俺に対し、酒場のあちこちではひそひそ声が聞こえる。



「んなもん……アレだろうな」

「だな、理由は間違いなくアレだ」



 俺は睨みをきかせて周囲を黙らせる。

 お前らに俺の何がわかる……知ったような口利きやがって。俺が今までどんな努力をして、勇者パーティーに入れるほどの実力者になったのか知らないくせに……!



「それは……」

「それは? 早く言えよ!」



 勇者は声をつまらせながら答えた。



「お前が全裸だからだ」

 



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