俺を追放した勇者パーティー、服を着ろと言われてももう遅い

猫飯 みけ

第1話 勇者パーティーの拳闘士

 ここはアルガンテ。魔王の住む都「リベデラル」の目と鼻の先にある都市だ。

 アルガンテは魔王軍との戦争の最前線基地でもある。

 そのため、周囲は城壁で囲まれており、どことなく圧迫感が漂ってくる。


 だが、そんな街にも酒場はあった。両者のにらみ合いが始まってから約1年。緊張感が少し薄れてきたためか、酒場には人が増えてきている。


 魔王との決戦に備え、勇者パーティーの奴らは小難しいことを考えている。だが、俺みたいな拳闘士モンクには向いていない。


 頭脳労働は賢者にやらせておくのが良い。何せ、俺にはよく分からないからな。魔王でも適当に殴ってれば倒せるだろ。


 だから今もこうして、カウンターで強い酒を流し込んでいる。


「ラスターク、ちょっといいか」


 急に勇者が俺に話しかけてきた。

 俺は呑んだくれだが、一応は勇者パーティーの拳闘士モンクだ。チーム内の攻撃力は勇者に続き2位。火力に自信はあるが、魔法は全く持って使えない。


 拳闘士モンクだから、魔法が使えないのではない。魔法が使えないから、拳闘士モンクをやっている。


「なんだ? 勇者さん、あんたも呑むか?」


 勇者は俺を見ると、怪訝そうな顔をする。美男美女揃いの勇者パーティーの中で、普通の顔面偏差値の俺は、醜くもあるだろう。

 それにしたってその表情はないだろう。無骨な俺でも少しは傷つく。


 金髪碧眼の中性的顔立ちのイケメン主人公さんは、見ている世界が違うんだろうな……。


「いや、僕は良い。とりあえず隣、失礼するよ」

「ったく相変わらず固いな。少しは肩の力抜かないと持たんぞ?」


 俺はグラスに入った酒をあおる。それとは対照的に、勇者は無言で下を見ている。


「――なぁラスターク」

「なんだ」

「……お前、もうパーティーから抜けろ」

「は?」


 尽きない疑問が俺の脳を侵食していく。何故だ、何故これから魔王に挑もうって時に俺を抜けさせようとする? 


「おい、どういう事だよ……!? なぜだ!」

「お願いだ……抜けてくれないか……この通りだ……」


 勇者はその場で綺麗な土下座をした。

 酒場の視線が全部俺たちの方に向いた。人類の希望といわれるイケメンが、さえないおっさんに土下座をしているのだ。目立つのは当たり前だ。


 正直な話、俺にも心当たりがないわけじゃない。


「俺が魔法を使えないからか!?」


 魔王がすさまじい防御力を誇っていて、魔法しか効果がないかもしれない。それなら——分かる。


「違う」


 違ったようだ……。

 そうかそうか。拳だと応用が利きづらいし、リーチもない。せめて武器が使える必要があるんだろう。


「俺が剣を扱えないからか!」

「違う」


 違ったようだ……。

 まさかとは思うが……。


「ははっ……そうか。俺の顔が醜いか……!」

「――それも違う。顔は問題じゃない」


 分からない。俺が勇者パーティーから抜けなければ行けない意味が!


「じゃあなんなんだよ! 何が不満なんだ!」


 叫ぶ俺に対し、酒場のあちこちではひそひそ声が聞こえる。


「んなもん……アレだろうな」

「だな、理由は間違いなくアレだ」


 俺は睨みを聞かせ周囲を黙らせる。お前らに俺の何がわかる……知ったような口利きやがって。俺が今までどんな努力をして、勇者パーティーに入れるほどになったか知らないくせに……!


「それは……」

「それは? 早く言えよ!」


 勇者は声をつまらせながら答えた。


「お前が全裸だからだ」

 



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