前世の技術、すごい


「あ、あのー……。それに関して、一つ、提案があります」


 私がおずおずと手をあげ発言すると、高貴な方々の視線が一斉に私に向かった。


「メレディア?」

「道路を魔石仕様にするのです。炎を巡らせた魔石仕様に」


 そう、前世で言うところのロードヒーティングだ。

 あれは水に反応して熱を発生させる塩化カルシウムによるものだけれど、この世界には希少ながらも魔法使いの魔法が込められた魔石がある。

 有効活用しない手はない。


「ふむ、道路を?」

「はい。道路に魔石を組み込むのです。発動条件を、一定の温度──そうですね、雪のようなマイナス温度に設定して魔石を作ってもらう。それを道路に組み込んで整備するんです。そうすれば雪が道路に落ちるのを合図に溶けていくので、道路に降り積もることもない。こういう有事の際に、駆けつけやすくなります」


 強調されたその言葉の意味に、国王陛下も王妃様も気づいたようで、罰の悪そうな表情で視線を伏せた。


 ちくりと刺したそれは、さぞ深く陛下達の心に突き刺さったことだろう。

 この部屋に入った時から気まずそうにしていたもの。

 気にしていないはずがない。

 むしろそのことに私は多少ながらも安堵を覚えていた。


 なかったことにはできない。

 その時のロイド様のお父様のお心も。

 ロイド様の悔しさも。

 領民達の苦しみも。


「……わかった。道路整備についても、我が国をあげて必ずややり遂げよう」

 肩を落とした陛下が唸りながらそう応えると、それまで黙って控えていた王妃様が一歩前へと進み出て、私たちに向かって深く頭を下げた。


「王妃!!」

「!?」

 一国の王妃である彼女の行動に、陛下が声をあげる。


「ロイド・ベルゼ公爵。あのベルゼの冬の時のこと、本当に申し訳ありませんでした。あれを経験したあなたも、領民も、大切な食料を分け与えることに何も思わないわけがありません。にもかかわらず、この王都を──国民を助けにきてくれてありがとう。ヴォルフガン王家は、ベルゼ領の此度の恩を、決して忘れません」


 王妃様の言葉に、陛下もまた、私たちに向かって頭を下げた。

 王族が、一貴族に頭を下げる。

 そんなありえない光景をじっと無表情で見つめ、ロイド様が口を開いた。


「──我がベルゼ領は、助け合うことで生きてきた場所ですから。……では、約束いただけたと言うことで、各町へ向かわせます。城からも騎士団を手伝いによこしていただけますね?」


「あぁ、もちろんだとも。好きに使ってくれ」


 それにロイド様は頷くと、国王夫妻に一礼してから私の手を取って部屋を出るのだった。

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