荒れ果てた光景
分厚い雪が降り積もった道は決して生易しいものではない。
荷馬車の車輪や馬の蹄には滑り止めと炎の魔石が組み込まれていて、雪を溶かしながらの走行をしているが、いかんせん道も視界も悪い。
よって、普段でも早馬で三日はかかる道も、今回はその倍かかってしまった。
これは確かに、ナマモノを運ぶ場合だと行きだけで痛んでしまうわね。
熱して調理するだけの簡単冷凍食品にしたからこその保ちだ。
まぁ、それでも箱の中に氷の魔石を散りばめさせてある程度温度が落ちないように簡易クール便にして工夫しているのだけれど。
こういう工夫がもう少し研究さて、本当にクール便ができてくれたら少しは便利になるのだろう。
そう考えると、前世は本当に恵まれた世界だったのだと気づく。
──ようやく王都に着いた私たちは、窓から見える景色に言葉を無くした。
「これは……」
「酷い……」
いつもは冬でも食材が並ぶ大通りの市場は荒れ果て、まるで強盗にでもあったかのような有様だ。
「おそらく食糧難でパニックになった人たちが食糧を求めて襲撃したんだろう」
「そんな……」
「あるんだよ。こういった非常事態ではな」
生命の危機を感じた時、人は心を忘れる。
そういうことなのだろうけれど、あまりにも悲しい現実に目を背けたくなる。
「大丈夫だ。すぐに元の活気ある町に戻すぞ」
「!! はい!!」
大きな門を通って広い庭園を抜けると、美しい王城へと辿り着いた。
「ベルゼ公爵夫妻でございますね? 遠いところを本当にありがとうございます」
どこか気まずそうにしながら私たちを迎え出たのは、この国の宰相ゴルダスタ宰相だ。。
真っ白い髪を後ろに撫で付けた初老の宰相は、此度の無理を理解しているのだろう。
申し訳なさそうに眉を垂れ下げている。
「この度は本当に──」
「今は謝罪はいい。陛下は?」
ロイド様が冷たく言葉を遮ると、宰相は「どうぞ。こちらでお待ちです」と私たちを奥へと案内した。
だだっ広く静かなエントランスを抜け、奥へ奥へとビロードの赤い絨毯を踏みしめながら、緊張した面持ちで進んでいくと、重厚な白い扉が見えてきた。
──謁見の間。
社交界デビューで陛下へ謁見した時以来だ。
あの時は初めて社交界でたくさんの声に晒されて、この扉の前で吐き戻してしまったのだ。
そして一人遅れて陛下へ謁見し、父にこれでもかと言うほどに叱られた。
あまり思い出したくない思い出だ。
「陛下。ベルゼ公爵夫妻がいらっしゃいました」
「通せ」
宰相の声に短く反応したしわがれた低い声。
いよいよだ。
私はロイド様の腕にかけた手に力を込め、口をキュッと引き結んだ。
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