メレディアの答え
「お父様、お母様、お久しぶりです」
「あぁ、エレノアがお前にも是非にと言うので招待状を書いたが……来れたんだな」
たいして気にもしないような目。
それでいて頰が引き攣っていたのは、また体調を崩してフレッツェル伯爵家の恥になるなよ、という保身の感情からだろう。
「ロイド様、お姉様に汚物を引っ掛けられたら大変だし、もう少し離れていた方がよろしいのではなくて?」
嘲笑混じりのエレノアの言葉に、他の招待客もくすくすと笑い始める。
その中には、私の元婚約者達の声も。
「全くもってその通りだ」
「ゲロ吐き令嬢だからな、彼女は」
「あんなもの吐かれて挙句倒れられたんじゃ、恥ずかしくて仕方がない」
あぁ──キモチワルイ。
音と混ざり合う人を見下した言葉が、私に襲いかかる。
うねりながら足元から続々としたものが込み上げてくるのがわかる。
だめだ。
これは──。
込み上がるものが抑えきれなくなってきたその時、ぐっと私の肩が大きな手によって引き寄せられた。
「!?」
「大丈夫だ。俺がついてるって言っただろう?」
「旦那様……」
私にだけ聞こえるほどの小さな声でそう言うと、旦那様はまっすぐに父と母、それにエレノアの方へと視線を移し、鋭い瞳で睨みつけた。
「俺はメレディアから出たものなら、全て受け止めることができるぞ。それが家族というものなのだろうが、貴殿らは違うのかな?」
「ぐぐっ……」
言葉を詰まらせ顔を歪ませるお父様。
そういえば、私が気持ち悪くなった時、一度だってお父様は心配の言葉をかけてはくれなかった。
お母様もだ。
気づくことすらなかったのだ、私に。私の存在に。
「大切な存在は、周囲の目から、世界全てからでも守るものではないのか? それをメレディアにのみしないというのは、なぜなんだろうな?」
「くっ……」
苦々しい表情を浮かべるお父様。
言い返せないわよね、だって、答えは決まっているのだもの。
「メレディア」
「は、はい?」
突然に私の方へかけられた声に、私は肩を揺らして返事をする。
「選べ。お前にとって、この家は必要か?」
「!!」
それは至ってシンプルな問いかけ。
だけどとても簡単な問いでもある。
そう、先程のお父様にとっての問いと同じくらいに。
「必要──じゃないわ」
「何?」
私の口から静かに放たれた言葉に、お父様がじろりと私を睨みつけるけれど、怯むことはない。
その嫌悪のこもった目を、私はまっすぐに見返して声を張り上げた。
「なんでも私のものを盗っていく妹。そんな妹だけを溺愛する両親。それに便乗して仕事を怠慢する使用人達。どれも皆、私には必要ない!!」
「!! メレディア……あなた……!!」
それまで黙っていたお母様が信じられないと言った様子で声をあげる。
冷たいと思うだろう。
でも、それを言葉にした私の心はどこか晴々としていた。
「なっ……なっ……お前……!! 今まで育ってもらった恩を──!!」
「私はあなた達に娘として大切にされた記憶はありません」
顔を真っ赤にして怒鳴り上げる父に、私は動じることなく言い放った。
「メレディア……貴様……!!」
「そういうことなら、もう付き合いはなくてもいいな? ──我が公爵家はフレッツェル伯爵家との関わりを断つことをここに宣言する!!」
その宣言にざわめく会場内。
当然だ。
公爵家との縁が断たれれば、膨大な援助だってなくなるのだから。
フレッツェル伯爵家はエレノアにお金を使いすぎた。
そこで私を結婚させて援助金をもらっていたのだから、これからは今までのような贅沢はできないだろう。
「では、我々は失礼する。メレディアとの親子関係の書類的解消は全てこちらで整え、後日そちらにお送りしよう。良い夜を」
「失礼します。フレッツェル伯爵、夫人、そして──フレッツェル伯爵令嬢」
私は家族だと思っていた人たちに向けて初めてで見せるであろう笑顔を向けると、旦那様に肩を抱かれながら、伯爵家を後にした。
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