水中都市とマーメイド

仲仁へび(旧:離久)

第1話



「たくさんの人に私の歌声を聞いてほしい」


『あのね、歌手になるのが夢なの』


「煌びやかな舞台で、歌いたいな」


 暗い水底の中にある、


 人魚の国。


 たくさんの仲間たちがいるけれど、


 そこにいるのは人魚だけ。


「私の夢はここじゃ叶わない」


「私は人魚だけの歌姫ではいたくない」


「だから……」





 夢をかなえるために、人魚は冒険に出た。


 たくさんのお魚たちに話しかけて旅をする。


 そうして、魔女の元へ向かった人魚。


 期待にたくさん、胸を膨らませて。


 きっと地上に出る方法があるから。


 きっと夢は叶うから。


 そう思いながら扉を叩いたけれども。


「人間になる魔法はないよ」


「地上で生きる魔法もないんだよ」


 けれど魔女は首をふる。


 夢はかなわない。


 そう言って。


 だから人魚は、悲しんで。


 失意の中で長い時を過ごした。






「死ぬとしても、一瞬だけでもいいから、地上で歌ってみたい」


 思いつめた人魚は、そう思ったけれど。


 家族に止められて、家の中から出られなくなってしまった。






 可哀想な人魚の娘。


 夢を叶えられない人魚の娘。


 友人たちは、気の毒に思った。


 何かできることはないかと、考えるようになった。


 そうして思いつくのは、一つの計画。


 人魚の世界を作り変える、夢物語。


 自分たちが地上に出られないのなら。


 人間達からここに来てもらえれば良いと。


 王様も、研究者も、建築家も、歌手も、普通の人魚も。


 たくさんの人を巻き込んで、計画は大きくなっていく。


「今まで言い出せなかったけれど」


「僕も地上の人たちと話がしたかったんだ」


「私も人間に会ってみたいの」


 夢に共感する者達は、大勢いた。







 たくさんの人魚が協力して出来上がったのは。


 一つの大きな海中都市。


 人魚と人間が共に生活できる都市。


 地上からは多くの人が訪れて。


 水中都市では多くの人魚が迎え入れる。


 たくさんの人と人魚。


 にぎわう都市の中。


 大きなホールには、たくさんお人魚の歌が響き渡る。


 そして最後に、一匹の人魚も、水球の舞台で歌う。


 都市をつくるきっかけの、人魚も。


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水中都市とマーメイド 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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