第16話 あとちょっとで死ぬ人




「ちょ、ちょちょっとまって霧島さん! ちゃんと話すから、こんな……ほら、四木君も連れて行った方がいいでしょ!?」


「そう言って自分さっき逃げとったやろ! 今はうちとちゃーんと話でもしようか?」


「ひぇぇ。そんなヤクザの取り立てみたいな……」


「なんか言ったか?」


「何も言ってないです。ハイ」




 真白はともかく、桜は何が何でも私から話を聞きたいらしい。

 教室に帰った瞬間女子トイレに連れ込まれそのまま壁ドンのごとく逃げられないようされてしまった。



 真白はそんな私に何かを言いかけていたが、桜に手を引っ張られてしまいその声を聞き取ることはできなかった。

 いや、今は真白より桜を優先しなきゃ……。




「あのぉ……き、霧島さん……私もその、変に隠してるわけじゃなくてね……」


「そないなアホなこと言う暇あると思ってるん?」


「アッハイ」



 本当は神無月先生に対して負担をかけるような真似をするのはちょっとだけ嫌だったんだけどなぁ……。

 そう思いつつも、私は先生が考えてくれた言い訳を口にする。


 この学校で起きていたこと。

 過去の悲劇。妖精という存在。境界線の世界。


 あの世界が様々な難易度で構成された別次元のものということも。



「……はぁぁ。つまり過去に起きた出来事について先生から聞いてたから堂々としてたということ?」


「そういうことだよ。というか私としては何でそこまではっきり答えてほしいのか分からないぐらいなんだけど……」


「そら当たり前やろ。自分こういうこと知っとるでぇ~。ここをこうすれば生きて帰れるんやでぇ~とか言われて、怪しいと思わへんのか?」


「ああうん。ハイ。怪しいね……」


「素直でよろしい」



 また小さく息を吐いた桜がちょっとだけ呆れたように言う。



「うち、こう見えていろいろ経験しとるんよ」


「首がない状態のこと?」


「それも含めて……まあ、いろいろ……アンタが言った過去に関係しとってな。ちょっとある神社の方でお世話になっとるんやけど……」




 そう言った霧島が、ふと何かに気づいたように私を見た。



「なあ自分、頬に切り傷あるんやけどいつそれ出来たん?」


「へっ? ……あっ、本当だ」



 ちょっとだけ頬を触るとツキリとした鈍い痛みが走る。

 それに眉をひそめた桜が考えるような表情になった。


「……あの世界じゃそないなもん出来てなかった……ここに来るまでも……それなら……あの偽物……?」


「き、霧島さん?」


「なあ雲井さん、アンタさっきまでその先生とやらの場所にいたって言ったよね?」


「えっ、うん。そうだけど……」


「嫌な予感がするから先生に会いに行かへんか」


「ふぇ?」


「うちの経験上これは良くないことだと思う……こんな、何もなかったのに急に切り傷がって……」




 そうして私の頬に触った桜。




「あっ」




 彼女の首が、ぽろっと取れた。





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