第15話 殺意
幼少期、理不尽というものを知った。
高校の頃に怪物という存在を知った。
そうして俺は、全てを壊したことがあった。
彼女を殺した時の感覚を覚えている。そうしなければ自分という存在を見失い、殺されたのは俺の方だった。
周りに助けられて生かされた。
だから今俺がここで教師をしているのは今まで行われたゲームの後始末をするため。俺が尻拭いをしなくても良かったことだが、どんなに夕日丘高等学校から離れても忘れることは出来なかった。
ふとした瞬間に思い出すのだ。
牙をこちらへ向けて食い殺そうとしてきた怪物を。
赤い瞳がこちらを見て、嗤ってきたあの頃の殺戮を。
頭がぐちゃぐちゃにされるような感覚。
どちらが現実なのかが分からなくなる混沌。
ふとした瞬間に殺されるような化け物はここにいない。
(落ち着け。思考を回せ……)
冷や汗を流し、小さく息を吐いた。
俺はただ「入れ」と言った。誰がいるのかを問いかけた。
たったそれだけだ。
扉を一枚挟んだだけの境界線。────この先に、俺が過去に見知った怪物がいる。
忘れることのできないトラウマは、命の危機に察知する。
きっと、あの頃の俺であれば扉を開けてしまっただろう。
何も分からず殺されて、妖精に弄ばれてリセット対象。そんなどうでもよい悪夢を繰り返すわけにはいかない。
「神無月先生? どうしたんですか、早く開けてください。あけてください。あけて。あけろ」
扉をコンコンと叩く雲井の声をした何か。
首がない影は不気味に映る。
これが嘘偽りない現実だとすれば……。
(ただ単純に俺を食らうために来たというだけなら────何故俺を狙ったのか。俺ではない、外へ出た本物の雲井は?)
携帯はあるが教師と生徒での個人的な連絡手段は持っていない。
考えれば考えるほどおかしく思うのは何故か。
コンコンと、ノック音が響く。
消えることのない不協和音。じりじりと近づいてきているような殺意。
(昨日の怪物は未練が分かりやすかった。今日のこいつはなんだ……)
昨日狙ってきた姿の見えない怪物。
雲井は怪異と呼んでいたそれは、幻覚ではなかった。
確かに見えていなかったが、空気で察する。
過去に体験した地獄のおかげで俺の目の前に怪物がいると分かったから、俺は知識と経験から察して答えを導き出しただけ。
ならば、扉の向こう側にいる怪物にはなんていえばいい。
直感的に俺は口を開いた。
「雲井新月はここにいない。お前は偽物だ」
仮に向こう側にいる怪物が雲井新月の存在を乗っ取ろうとしているのなら、俺がそれを否定しなければならない。
ここでこいつが雲井だと肯定すれば厄介なことになるかもしれない。そう経験から察した。
(ああ、嫌な予感がするな……)
俺の声に反応したのか、コンコンと叩いていた音が消えた。
首のない影も無くなった。
あの怪物の気配はもうしな────。
《しね》
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