第13話 誤魔化し



 現在の装備は片手に箒を持って、片手には縄。

 縄で軽く引っ張りつつ、自力で歩いてもらう。もちろんこちらに近づいて襲いかかってきそうになったらすぐに箒で距離を取るつもりであった。必要なら教室のどっかに言って誰かの机を盾に攻防するつもりでもある。


 でもきっともう大丈夫だろう。

 両手には縄で縛ってあるし、抵抗する力はない。たぶん。



 そう思っているうちに鏡に近づいて来た。

 以前と同じく私の姿が映らない鏡。ここから潜れば元の世界に帰れるはず。まあその前にまずは霧島桜の首を探して真白を見つけないといけないんだけど……。



(んーっと。霧島桜が怪異ってだけで、時間制限があってそれを過ぎたら襲い掛かってくる怪異いたよね……なんだっけ。姿を似せてくるあれ……ええと……)



「く、もいさん……ああ、良かった。雲井さんだ!」


「ん?」



 聞こえてきた声に振り返ると、そこには安堵した様子の真白がいた。



「まし……四木君。君もここに来てたのね……あれ、その布に包まれてるのは?」


「布に包んでるのは……えっと……」


「四木くんまた雲井さんおったの? 偽物とちゃうやろな?」


「えっ?」



 偽物と呼ばれたことに首を傾けるが、何故か真白が慌てた様子を見せた。



「だ、大丈夫だよ! 今度は本物だから!」


「……えーっと。本物とか偽物とかよくわからないんだけど、その布に包まれてるのってもしかして霧島さんかな? 首だけになっちゃったんだよね。身体は見つけてたから早くくっつけよう!」


「えっ────うわっ!? 縄で縛られた首無し女子生徒!?」


「今気づいたの!?」



 真っ先に私を発見したくせに、その隣にいた首無しの生徒に気づかないだなんて……どれだけ視野が悪いんだろうか。そう思い呆れてしまった。



「ちょ、ちょちょい待ち! うちの身体あるん!?」


「うん。あるよー。偶然だと思うけど私がこのよくわからない世界に来た時に発見して……でも首を絞めてきそうになったから縄で縛らせてもらったんだ。ごめんね」


「アンタの趣味やないの?」


「んなわけないでしょ!」



 引き攣った笑みを浮かべつつ、私は真白から桜の首を貰い、その首をゆっくりと身体に近づけた。

 自然と首がくっついたのだろう。縄で縛られた状態の、何も問題がない霧島桜の出来上がりである。


 彼女の縄を解いているが、桜は何故か私の方をいて微妙そうな顔を浮かべている。

 言いたいことがあるけれど、あり過ぎて何を言ったらいいのか分からないような顔だ。



「……ツッコミたい所がいっぱいあるんやけど……まあええわ」


「ツッコミたい……?」


「いやアンタ、うちの首だけの姿見てたやろ。なんで驚かれへんの?」


「うっ! いやそれはまあ、なんというか……怪異については詳しいというかなんというか……」


「そうだったの、雲井さん?」


「嘘やな。うちには分かる」


「そうなの!?」


「あははははー……ええと、後で説明するからまた今度ね……」



 うーんどう言おうかな。神無月先生は真白にあまり積極的に近づかないようにしてたけど、授業とかは普通に接してたしなぁ。

 とりあえず神無月先生に話をしてから考えるか。



「この鏡が出口だからさ。さっさと戻ろうよ」


「そうだね」


「……うちも話さないといけないことあるし、あとでたっぷり聞かせてもらうから」


「アッハイ」



 ここから戻ったらすぐに神無月先生といた場所に戻るから、大丈夫。

 まあ確かに堂々とし過ぎたかなって思うけど、前世の記憶について真白達に話しても問題はないと思うから良いんじゃないかなーとも思ってるし。その方がこれから先も動きやすいかなとも思っちゃうんだよね。

 協力者って増えた方がいいでしょ。桜については精神面でタフな所あるし。


 ほら、どうせ私の高校生活はこの怪異騒動で台無しになってるようなもんだからね!

 私が前世とか話す変人とか言われても問題はない……はず。






『────よ』




「ん?」


「どうしたの雲井さん」


「……あ、ううん。なんか変な声が聞こえた気がして。なんでもない。行こう!」


「う、うん……分かった」




















『にがさないよ』









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