第12話 違和感




 雲井さんのことは好きだ。

 一目惚れというべきか、それともこんな僕でも助けようとしてくれた優しさに触れたからというべきか。


 もちろんそれを彼女に伝えるつもりはない。

 まだ会って一日ぐらいしか経ってない。それでもずっとグルグルと雲井さんに出会ってから今までのことが思い出されていく。眠ることすらままならなかった。



 それぐらい激しい感情を抱いたのはきっと彼女が初めてだったから。




「……ええと、僕達ここから出なきゃだから」




 目の前にいる雲井さんに、違和感を抱いた。


 首だけになっている霧島さんが「知り合い?」と聞いてくるけれど、僕はそれになんと返事すればいいのか分からない。

 見た目はそっくりだ。可愛らしい容姿。ポニーテールの髪の毛が彼女が動くたびに揺れて、シャンプーのような花の香りがたまに飛んでくる。

 好きだと思った人がそのまま飛び出てきたような感じで、本物かと思えたけれど……。



(なんか、違うんだよなぁ……)




 たぶん、声を出してないせいだろうか。

 喋りかけても微笑むだけ。香りとか見た目とかはそっくりでも、それ以外は違和感だらけの彼女。



「……あの、雲井さん。だよね?」



 僕が問いかけても笑うだけ。

 頷いて、そうして僕の手を握ってどこかへ連れて行こうとする。


 それを僕が拒否すると彼女は少し寂しそうな顔をして手を離した。その顔を見ていると罪悪感があるけれど……。



 それでも、やっぱり彼女じゃないって思えてしまった。



 雲井さんは一体何者なんだろうか。

 なんでこんな世界に偽物の雲井さんがいるんだろうか。


 そんな考えがグルグルと回る。

 霧島さんを放っておいてはいけないのに、目の前にいる違和感だらけの雲井さんばかりを見てしまう。


 ここは多分、昨日来た世界と同じだと思う。神隠しみたいなものかな。ならば何故彼女そっくりの生き物が僕の目の前に来てニコニコと親切にしてくれるんだろうか。


 ────あいつに、食べさせた方がいいだろうか。

 そう思った瞬間だった。




「あっ……」


「どないしたん?」


「いやその……いつの間にか雲井さんの姿がなくて……」


「えぇ!? だ、大丈夫かな……うちらしかおらへんし、なんや嫌な予感もしてくるのに……」


「うん、そうだね。僕も嫌な予感がする……」




 ────本物の雲井さんに早く会いたい。

 違和感だらけだったけれど、本物そっくりな彼女を見ていて予感がしたんだ。


 もしかしたら、彼女の存在を乗っ取ろうとする怪異なんじゃないかとか。

 ドッペルゲンガーみたいに、雲井さんがあの偽物の存在を見て死んじゃう可能性だってあるから。



「早く行こう!」



 首だけになっている霧島さんも心配だから、早くここから脱出して、なんとかしなきゃ……。




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