第11話 首と胴体と二人





 正直言ってまだ大丈夫だと思っていたのに……!



「なんで神無月先生と話している時に来るかなぁ!! いや、必要な物っていって渡された後にこっちに来たからまだマシだったけど!!」



 今いる場所は科学準備室。ただし神無月先生はいない。

 多分主人公である真白は教室にいるのだろう。やばい。神無月先生と話しすぎていたかな。もしもこれで私ではなく真白の方に怪異がいっていた場合ちょっと面倒なことになる。


 先ほどまでは登校してくる生徒で賑わっていたはずの学校。私や神無月先生が話し合っている間に微かに聞こえていた笑い声や雑談などといったものは全て消えていた。



 怪異に襲われたらどうしよう。

 そんな恐怖に打ち勝たないと私は死んでしまう。神無月先生だっていろいろと対策を立ててくれたじゃない。



「……よし!」



 恐る恐る外へ出れば廊下から微かな物音が聞こえてきた。

 ────運が良かったのか悪かったのか。そこには女子生徒の制服を着た異形なものがあった。


 そう、きっとあの身体こそ霧島桜のもの。

 私の近くに首無しの身体がふらふらと何かを探して彷徨っているように見えたのだ。



 声を出したら気づかれるかもしれない。いや聴覚はないけれど……。

 五感の中の、触覚とかそういうのが鋭いのならきっと私が歩くだけで気づかれる。

 


 神無月先生だって言っていた。

 馬鹿正直に近づくぐらいならいっそのこと向こうから近づいて来てもらえればいいと────。



(それ!)



 科学準備室にあったペンを借りて、それを廊下の先に投げ込む。

 瞬間聞こえてきたのはカツンという小さな音。



 何かを察知でもしたのか、身体が科学準備室を通り過ぎてペンがあった場所へ移動する。目がないせいだろうか。たまに何かに躓き転びそうになったり、壁に身体を激突させたりしている。

 しかしそんなふらついている身体に一歩でも近づけば私の首をへし折ろうとするので要注意だ。


 まあそれでも首がないと言っても彼女はただの女子生徒。怪異のようなやばいのとは違う。たぶん。



(そのまま……そのままぁ……)



 神無月先生は言っていた。一定の距離を保ったまま暴れさせなければいい。

 それなら、身体を縛ってしまえばいいと。



「おりゃあ!!」



 冷や汗を流しつつも私は必死に彼女の身体を縄で縛り上げた。

 暴れそうになるので腕を絶対にこちらに向けさせないよう背中向きに縛って、グルグルにしておく。足だけはそのままにして────。



「かんせーい! よし、これで無力化成功ね!」



 じたばたと暴れている身体を横倒しにしつつ、私は満ち溢れた達成感に笑いながら汗をぬぐった。


 たぶんどこかに真白と、首だけの存在になった桜がいるはず。

 二人を探してさっさとここから脱出しないと……。





・・・







「……あれ」




 気が付いたら僕は教室に一人ぼっちで座っている状態だった。

 教室にいたはずのクラスメイトがほとんどいない。


 またここに来てしまったらしい。

 そう理解した僕はすぐ立ち上がった。


 多分僕だけじゃない。雲井さんもここに居るはず。


 雲井さんは────確か、神無月先生に用事があっていないとか言っていたから、科学準備室の方にいるのかな。



「……のぉ」


「えっ」




 教室から出ようとした僕の背中にかかる声。


 何かいるのかと思ってふと振り向いて────目が合って、理解した。




「あのぉ、助けて────」



「うわあああああああああああああっっ!!!!!!」




 机の上に何故かあった生首が、僕に向かって話しかけてきたのだ。



「ああああ逃げないで! うちは化け物じゃないよ! そりゃあ首だけになっちゃってるけどそれは生まれ月みたいなもんでね……ほら、大丈夫だから一人にせんといて! お願い!」



 慌てたように話しかけてくる生首に僕は少しだけ冷静になれた。



「……えっと、君は」


「ああ、まだ二日目やし分からんか。うちは霧島桜。これでもクラスメイトだよ」


「クラスメイト……身体はどうしたんですか?」


「あはははは……さぁ、どっかにいってもうたんとちゃうかな……」



 少し困った表情をしている彼女が放っておけなくて、僕は手を伸ばした。



「あの、困っているなら手伝うよ。身体が見つからないなら探そう」


「……ええと、うち今生首なんやけど、怖くないん?」


「最初は怖かったけど、でも君が困っている表情をしてたし……それに、そんな状態じゃ何もできないでしょ。僕に出来ることがあったら何でも言ってよ!」


「そ、そう? ならありがたくお言葉に甘えさせてもらおうかな……」



 頬を染めた霧島さんがそう言って僕に身をゆだねてくれた。



「そのまま直接抱っこするのは良くないかな……何か布に包んだ方がいい?」


「それは……」



 霧島さんが何かを言おうとした瞬間だった。

 

 横から手が伸びてきたのだ。

 清潔そうな布を持った手が僕たちに差し出すように。





「あ、ありがとう……?」




 いつの間にか隣に居て、にっこりと微笑んできた雲井さんに違和感を抱いた。





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