第10話 桜という少女の過去




「霧島桜という女子生徒は今回怪異に襲われると言ったが、それ以外にも何か理由があるのか?」


「まあ、はい……ちょっとした不幸のせいで霊感が強くなってしまったと言いますか、巻き込まれ体質になったと言いますか……」




 私は神無月先生に霧島桜の過去について話す。

 もちろんこの世界では本当はどうかはわからない。現実とゲームが違うかもしれないし、ゲーム自体をクリアしていないから真実が違う可能性もあることを説明しながらだけど……。



「きっかけは肝試しでした────」




 その少女、霧島桜は昔から勝負ごとに弱かった。

 テストでは基本的に良い点を取れるというのに、誰かと勝ち負けをすることになると急に悪い点数を取ってしまい負ける。


 駆けっこでもちょっとしたことで転んでは負けて、じゃんけんも勝ったことが一度もないという奇跡の敗北少女であった。


 桜は小学生の頃。

 じゃんけんで負けたからという理由で、ある肝試しにやってきていた。

 

 首切り峠の廃屋。そんな嫌な名前が付けられたそこにやってきた桜は、じゃんけんをやった友達と一緒にその廃屋の中に入ることにした。


 もちろんじゃんけんをして負けた桜が先頭を歩くことになった。

 辺りは薄暗く、懐中電灯のほのかな明かりでしか見ることのできない場所。倒壊しかかった廃屋は足元に当時住んでいたであろう住人が使っていた雑誌やら割れたお皿やらが散乱していて、不気味なぐらい静かな場所だった。


 そんな廃屋の真っ直ぐ進んだ先。

 奥にある部屋で、彼女は見たのだ。



「何を見たんだ?」


「全身が映し出せる鏡です。廃屋に散らばってる壊れかかっていたり腐敗したりした物よりも明らかに新しいそれはとても異様なものでした」


「……鏡か」



 神無月先生が眉をしかめて考えたように黙り込むが、私は構わず話を続ける。



 その鏡を覗き込んだ桜は気づいてしまった。

 彼女の首が消えていたことに。


 恐ろしくなって悲鳴を上げた桜はすぐさま逃げ出した。

 彼女の異変に気付かなかった他の友達を置いて、そのまま真っ直ぐ家まで駆けた。



 ────そうして、後悔した。

 あの時何故逃げてしまったのだろうかと。

 友達を置いて逃げなければよかったのだと。



「桜が一緒に居た友達は皆行方不明になりました……未だに彼女たちの死体も不明。消息は分からないままです」


「……そうか」



 その後に彼女は見えない物を見るようになった。

 ふとした拍子に、首が飛ぶようになった。



 その呪いは今でも続いている。

 そうしてたまに聞こえてくるらしい。友達が桜を呼ぶ声が。



 悲しそうなもの。怒りに満ちたもの。

 断末魔の叫び声のような────とても怖い声が聞こえてくるのだと。



「それが私の知っている霧島桜の全てです。だから彼女には見えないものが視えます。私達には分からないもの……いわゆる、気配察知? 直感? ちょっとした怪異にも反応するぐらい強いので彼女には死んでほしくないし……いや、ここはゲームじゃなくて現実だから誰も死んでほしくないんですけど……」


「まあ言いたいことは分かった。そのためにやるべきことは話したが……いいか、出来るな?」


「はい、頑張ります!」




 

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