第5話 相談
それは入学式前まで遡る────。
神無月先生と私は椅子に座りお互いの顔を見ながらも話しをしていた。
それは主にこれからどういう展開が起きるのか、プロローグたるお話をメインに会話を進めていく。
「入学式の途中で私と主人公……四木真白という男子生徒は神隠しに遭います」
「神隠しというとなんだ?」
「まあ前作で言うところの境界線の世界に連れていかれるといいますか。前作で力を持った妖精が残した遺物たるその世界に怪異が取り残されていて、それらが四木真白を通じて活発化し、何故か私を狙ってきます」
「つまり餌か」
「確かに餌みたいなもんですけど! もうちょっと言い方という者があると思うんですが……」
「言い方も何もないだろう。俺もこの夕日丘高等学校に通っていた頃は酷い目に遭ったからな……。つまりお前は怪異にとって他の生徒とは違う要素を持った惹きつけられる餌であり、主人公は怪異を元気づけるものということだろう」
「……まあ、はい」
「主人公の影は危険だと言ったな。それはどういう意味だ?」
「何と言えばいいのか……」
鏡のような存在?
ラスボス要素含めたおっちょこちょい人外?
でもこんなにも真剣そうな神無月先生に変なことは言いたくないし、私もぼんやりとした表現はしたくない。
そう思い考えていて思いついた言葉があった。
「妖精に代わる存在ですね」
「妖精、か……」
渋い顔をした神無月先生は、その深く青い双眸を閉ざし考え込む。
「……つまり、俺が夕日丘高等学校に通っていた頃にいたあの妖精ユウヒのように悪戯も何もかもするような存在だということか?」
「いえ、そうじゃなくて……ええと、何だろう。私もゲームをしていて出てきたアイテムの……なんというか、ゲーム世界での神無月先生がメモを書いていたのを回収した時にわかったというか……」
「何が書かれていた?」
「ええと……『妖精と同じく外界から来た怪物であり、執着対象は四木真白』とだけ。夕青はシリーズにあったし、私も全部クリアしたわけじゃないのでどういう意味なのかは分からなくって……」
「いや、そうか。なるほど……理解したよ。そのゲームの俺が書いたメモという意味が」
「早いな!?」
驚愕した様子の私を小さく笑った神無月先生が、すぐさま真面目な表情に切り替えて言う。
「妖精は夕日丘高等学校の生徒全体が玩具対象だった」
「お、おもちゃ……」
「ああ。生徒全員が玩具であり、弄って良い存在。魂をこねくり回し怪物のようにしてしまうか、それとも別人と別人を入れ替えて遊ぶかという……なんだ、その様子だと妖精が元凶だと知らなかったようだが……雲井は妖精ユウヒの事をどう認識している?」
「い、いやぁ……普通に冬野白兎がラスボスヒロインだったのかなぁと。妖精も青戦ではお仕事をすべて終えたから故郷へ帰ったとかそういう感じで説明されてましたし……」
「ははっ。冬野白兎……懐かしいなその名を聞くのも。……そうだな。ある意味妖精に力を与えたのはあの冬野白兎という存在のせいかもしれないな」
疲れた様子の先生が小さく溜息をついた。
本当に前作で大変な目に遭って、それで生き残ってきたのかと察する。
────私はきっと、神無月先生に似た酷い目に遭うのだろう。だって私は新月……つまり、神無月先生のポジションに位置するはずだから。
「それで、チュートリアルとやらは何をするんだ?」
「いわゆる脱出ゲームですね。入学式に神隠し……いや、先生の分かりやすいように言うと、境界線の世界にあるレベルゼロという場所でのっぺらぼうに追いかけられるので制限時間以内に鏡から脱出し、その後追いかけて来たのっぺらぼうたちをどうにか退治します」
「待て。ツッコミたい部分が山ほどあるんだが……」
「ああ、レベルゼロって単語が出たのは青戦からでしたね。いわゆる妖精が残した遺物である境界線の世界が何層もの空間となって作られていて、そこにいる怪異はそれぞれで特徴が異なります」
「……つまりあの妖精が作り上げた無限ループのような地獄は空間と空間を個別に作り上げたようなものであり、そこに取り残された者がいるというわけか」
「まあ、そうなりますね……それでのっぺらぼうの退治方法ですが、これは運要素もあって……。レベルゼロの中にある空間で、制限時間内に探さないといけないんです。つまり────」
私は神無月先生に説明する。
のっぺらぼうは自分の記憶を忘れた哀れな亡霊のようなもの。記憶がないからどうして自分がこうなっているのか分からない。だから顔がないのだ。ぼんやりと影がかかってしまい、見えなくなってしまっているのだ。
そんなのっぺらぼうは本来の自分の顔を思い出したいと願い、探しているらしい。
そのため入学式で神隠しに遭った世界で私たちは見つけなければならないのだ。彼らが過去に存在していたという手がかりを。その写真を……。
「のっぺらぼう達の正体が過去百年ほど存在する夕日丘高等学校の在学生徒であり、途中で行方不明となった生徒ということは分かってます」
「ならどういう生徒がその怪異の正体かは分かっているんじゃないのか?」
「いえ、その……チュートリアルを繰り返すごとに怪異の中身か変わっていて、チュートリアルごとに写真の位置も変わります。例えば三階の教室にある机の上にあったそれが一階のトイレ前に落ちていたり、職員室に会ったかと思いきや屋上にあったりです」
問題はそれだけじゃない。
そう思い私は続きを話した。
「それと同時に、制限時間が過ぎてしまうと私が死にます。死ぬというか、時間が経過していくごとに私の身体の一部がのっぺらぼうに持っていかれてしまい、身体が動かなくなり最終的にはその怪異と入れ替わる形で死にます」
だから写真を見つけるのは本当に難しい。
足片方持っていかれる可能性だってあるんだから、それでクリアして次の段階でヒロインが無傷になったと言っても、この世界は現実。私の身体が一部持っていかれればそれで終わり。二度と帰ってくることはないだろう。
それが怖いんだ。
私はきっと、写真を見つけられるかすらも緊張して、怖くなってたまらない。
そういう恐怖を理解したのか、先生は小さく息をついた。
「……青戦というのは、イージーモードじゃなかったのか?」
「そんなの私だって知りたいですよぉ!! なんであんなに難しいの! チュートリアルで何度ゲームオーバーになったことか!! だからチュートリアルで私の身体が一部犠牲になるのは確実なんですよぉ! そうしないと逃げても意味がないからです!」
「要は顔が分かればいいんだろう。ならお前は四木真白を連れてそのまま帰ってこい。写真を見つけなくても構わない」
「えっ?」
「そのかわり、異変が起こる前に俺の元へ戻れ。……できれば俺の前に四木真白は連れてくるな。分かったな?」
「は、はい」
・・・・
先生の言う通りに私は動いた。
鏡が出入り口になっているから、一直線に走って逃げる。
のっぺらぼうに追いかけられてはいなかったけれど……それでも、途中で出会ってしまったからきっと足音を覚えられたはずだ。
呼吸の音。小さく悲鳴を上げそうになった声。
それら全てを聞き覚え、私を狙うはず……。
それだけが怖いから、早く帰って神無月先生にどうにかしてもらわなくちゃと鏡の中へ潜った。
そうして浮遊感が遅いかかった。
「────続きまして、生徒代表挨拶」
響いていた声に、ハッと我に返る。
真白もだろうか。彼はびっくりしたように立ち上がってしまい、まだ入学式の途中だからと怒られてすぐ席に座っていたけれど……。
入学式の途中で夢を見ていたかのようだった。
夢だったら良かった。
小さく息を顰める。
呼吸はなるべくしないように、小さく、ちいさく────。
入学式の最中だというのに。この世界は現実だというのに。
見えない何かが来ているのだろうか、カタンという奇妙な音が遠くから聞こえてきたような気がした。
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